廃虚見える岩手の元スキー場 バックカントリーで再興 課題は安全対策と自然保護
ガイドらは安全対策重視
市が期待を寄せる一方、雪山に直接携わるガイドらは手放しで喜んでいない。それは彼らが雪山の危険と安全対策の重要性を知っているからだ。 CATを共同運行する「八幡平キャットツアーズ」のプロダクトマネジャー、工藤嘉充(よしみつ)さん(39)は「道具の進化により、昔より雪山に入るのが楽になっている。知識や技術が不足していてもバックカントリーを楽しめる時代になった。だからこそ安全管理体制の強化がより必要」と指摘する。
このエリアは雪崩頻発地帯で、2005年と2008年には死亡事故も起きた。危機感を募らせた工藤さんらは「北東北エリア雪崩事故防止研究会」を発足させた。雪崩に巻き込まれた人を救助する講習などを受けるほか、雪崩の予測に役立つ雪の定点観測も毎日続けており、情報発信を行っている。 バックカントリーの愛好家には外国人も多い。市はエリアの整備でインバウンドも取り込みたいと期待しているが、ガイド数の不足や言語の壁という問題から工藤さんは慎重姿勢。「遊び方をきちんと学んだ、願わくば日本人に来てほしい」と本音を漏らす。
山を愛する高橋さんの思い
さらに厳しい見方をする人もいる。ガイド会社を経営しながら自身もスノーボードで八幡平を楽しむ高橋孝精さん(33)だ。八幡平キャットツアーズには加盟しているものの、「シンプルに歩いて登って滑る。これが一番理にかなっている」とCATの利用に乗り気ではない。 自分の足で登って滑る--。そのこだわりは、自分自身の経験が関係している。高橋さんは高校2年からスノーボードを始めたが、初めて滑ったのが八幡平のスキー場だった。 22歳のとき、スキー場は閉鎖される。だが、それでも自力で登っては滑っていた。その後、北海道のニセコに移り、ガイド会社に勤めていたが、ふるさとの山が忘れられず、2年前に戻ってきた。
山を愛するが故に、人が押し寄せてくることへの不安もある。遠方からの愛好家もうれしいが、それよりもまず、地元の人たちがこの場所の魅力に気づいて欲しいという。