護衛艦空撮で大騒ぎ…!自衛隊の脆弱性が露呈した「深刻な事実」と国土交通省によるドローン規制の盲点
なぜ中国ではフェイク動画と言われたのか
現行法をめぐる問題はこのほかにもある。それは罰則規定だ。護衛艦「いずも」を空撮した動画が中国の動画サイト「Bilibili」で公開されると、中国国内の反応は「基地の中をドローンで空撮などできるはずないだろう」とか「別の動画から切り取ったのか」といった懐疑的な意見が多かった。その理由は様々だが、一つには同じことを中国国内で行えばかなりの重罪として処罰されるからだ。 中国は軍事施設保護法により「軍事禁区」「軍事管理区」と表示された場所に許可なく立ち入ったり、撮影したりする行為は厳しく罰せられ、国家の安全に危害を及ぼした場合は「10年以上の懲役又は無期懲役に処する」と定められている。同法には、敵に攻撃目標を示すような行為が例示されているが、ドローンで飛行甲板上を通過し、撮影の一部始終を公開した今回の行為は、まさに同法違反に該当する行為だろう。 中国のネット上の反応をみれば、軍事施設に対する日本の法律も中国と同様に厳しいに違いないと思ったのではないだろうか。だが残念ながら、それは思い違いだ。
厳罰化も選択肢のひとつ
前述した官邸無人機落下事件を機に、2017年に重要施設の上空や周囲の飛行を禁止する「小型無人機等飛行禁止法」が成立、19年以降は自衛隊や在日米軍などの防衛施設(現在は304か所)も飛行禁止の対象となっている。 だが罰則をみると、今回のように海上自衛隊と米海軍の横須賀基地に違法侵入し、護衛艦や空母などを撮影した場合でも、「1年以下の懲役と50万円以下の罰金」にしか処せられない。軽微な犯罪として扱われており、初犯であれば執行猶予だろう。 ドローンが違法侵入し、いずもが停泊していた横須賀基地の逸見岸壁は、市民の憩いの場であるヴェルニー公園に面し、停泊中の護衛艦を間近に見ることのできる場所でもある。国内の自衛隊施設には、旧陸海軍の歴史的な建造物なども残されており、観光施設となっている所も多い。だが、危害が加えられた場合には、国家、国民は甚大な影響を被ることを踏まえれば、軍事施設に許可なく侵入し、撮影するような行為に対しては現行法を改正し、厳罰化で臨む必要がある。 今回の空撮事件は、自衛隊がドローン攻撃に対し脆弱であることを露呈した事態ではあるが、この程度で済んだことを好機と捉え、様々な観点から再発防止策を講じてもらいたい。
勝股 秀通(日本大学危機管理学部特任教授)