「普通の裁判官とは違うんですよ」 “減額分の給料を払え”と国を訴えた61歳裁判官の素性とは
法曹界で極めて異例の事態が発生した。7月2日、三重県津地裁民事部で裁判長を務める竹内浩史判事(61)が、雇い主の国を相手取り減額分の報酬計約238万円の支払いを求め、名古屋地裁に訴訟を起こしたのだ。決断に至った理由など、本人の言い分に耳を傾けてみた。 ***
竹内氏は16年間の弁護士活動を経た後の2003年、弁護士会連合会の推薦を受けて判事に任命された。弁護士時代は労働者側の代理人として労働事件を担当したり、市民オンブズマンを務めたりした経歴を持ち、判事となった今は自身のブログで情報発信を続ける“異色の裁判官”である。 そんな竹内判事に今回の訴訟に至った経緯を聞くと、以下のように答えた。 「私は大阪、名古屋の高裁を経て、21年度から現在の津地裁で勤務しています。大阪や名古屋では陪席裁判官でしたが、津では裁判長を務めており、決して仕事は楽になっていないのですが、年を追うごとに報酬を減らされていきました。今は大阪時代と比べて10%ほど報酬が少なくなってしまったのです」
「明らかに憲法違反」
なぜ、このようなことが起きてしまったのか。 その理由は、勤務地によって国家公務員に支払われる「地域手当」の支給割合が異なるからだという。これが高い都市部から低い地方へと転勤になると、結果としてトータルで報酬を減らされてしまうそうだが、 「裁判官は他の国家公務員とは異なる給与体系を持っており、そもそも、憲法80条2項に任官中の減俸禁止が記されています。よって、減俸を余儀なくされてしまう現状は明らかに憲法違反。しかし、是正される気配がないので、私自身の減俸もさることながら、この問題を世に問わなくてはいけないと思ったのです」
「裁判官だけの問題ではない」
とはいえ、裁判官は高給取りで知られる。竹内判事も大阪や名古屋で勤務していた頃は、年収が1800万円以上だったとみられる。それが幾分か下がったと訴えたとて、世論の支持は得られないのではないか。 「これは裁判官だけの問題ではありません。他の国家公務員についても同様に、勤務地により報酬が異なる現状は、憲法14条で定められた法の下の平等に反していると考えられます」 さらには、 「国家公務員の給料が地方にいくほど低く抑えられていることの影響で、地方公務員の給料も地域ごとに格差が出ている。ひいてはこの連鎖が、地方の民間企業の給料や最低賃金にまで続いているとみることができるのです。私の訴訟を労働者全体の問題を考える一つの契機にしてほしい」