井上尚弥のネリ対策の相手をした、いとこ・浩樹は「想定どおり」ダウン後の戦いは「人間離れしていて恐怖すら覚える」
――試合の立ち上がりは、尚弥選手の右のオーバーハンドが印象に残りました。何か狙いがあったのでしょうか? 「ネリはグイグイと前にプレッシャーをかけてくるタイプなので、強いパンチを警戒させてネリが入ってくるのを阻止する、あるいは、少しでも軽減させる狙いがあったんじゃないかと思います。簡単に言えば、"ビビらせるため"なんじゃないかと」 ――立ち上がりとしては悪くなかった? 「1ラウンドの立ち上がりにしては、少し雑な部分もあったかもしれません。左ボディーを打ってから大きな右フックを打とうとしていたのですが、右ストレートのほうがよかったかもしれない。ちょっとパンチが大きくなったことで、その後のタイミングがズレてしまったようにも見えます」 ――開始1分40秒、ネリの左フックをもらった尚弥選手がプロ初のダウン。誰もが驚いた瞬間でしたが、浩樹選手の心境は? 「僕も初めて見る光景なので、何が起こったかわからないという感じでした。あの日は、(2試合前に行なわれた石田匠と戦った井上)拓真のダウンもありましたが、『まさか......』という言葉しか出てこなかったですね。尚弥さんに聞こえたかどうかはわからないですけど、『落ちついて!落ちついて!』と声をかけるしかありませんでした」 ――セコンドからの指示は? 「セコンドも『大丈夫、大丈夫。1回落ちつこう』という感じでした。ただ、ダウンしたあとの対処がすごく冷静だったので、すぐに『大丈夫そうだな』となりましたが」 ――ダウンを喫したのが初めての経験だったにもかかわらず、尚弥選手が冷静にカウント8まで使って回復を図ったことが高く評価されました。普段から、"万が一"も想定して練習しているのでしょうか。 「そういったことは見たことがないですね。でも、頭のなかではあらゆることを想定していたんでしょう」
【2ラウンドの途中から戦い方に変化】 ――尚弥選手も「見えなかった」と振り返ったネリの左フック、ダメージはどう見えましたか? 「ちょうど尚弥さんも右フックを打ちにいく流れで、そこにネリが左をかぶせてきた。尚弥さんの顔がネリのパンチと同じ方向に流れる感じのところにパンチが当たったので、ダメージはそこまでなかったと思います。逆に、尚弥さんが左フックを打ちにいく時だったら衝撃が逃げないので、危険だったかもしれません」 ――ダウン後、尚弥選手は防戦一方にならず、ロープ際でもタイミングよくパンチを返していました。 「勝負のうまさ、勝負強さですね。あそこでネリにペースを持っていかれると、どんどんネリは勢いづいてくる。攻撃を返さないと、もっといいパンチをもらう可能性があります。それにしても、あの状況で打ち返せるのは本当にすごいです」 ――ダウン後に打ち合いを選択した場合、追撃を受けてさらにダメージを追ってダウンするケースも多いと思います。特に序盤だと、そのリスクも大きいのでは? 「確かにリスキーだとは思います。ただ尚弥さんは、そのリスクを恐れずに戦うことができる。2ラウンドに入ってからも、途中まではタイミングを掴みきれず、危ないタイミングでパンチが交錯するシーンが何度かありました。ただ、そのラウンドの2分20秒くらいにダウンを奪い返してからは、危ない場面がなかったですね。距離とタイミングを完全に掴んで、見切っていました」 ――尚弥選手はペースを奪い返すために、戦い方を変えたんでしょうか? 「2ラウンドの途中から、ジャブとボディー、ストレート系のパンチに変えてから、完全に尚弥さんペースになりました。あとは、しっかりバックステップをするようになって、戦い方が丁寧になった印象です。そこからネリは何もできない感じで、ついていけませんでしたね」 ――ネリと同じサウスポーの、ファン・カルロス・パヤノ戦(WBSS1回戦、1ラウンド1分10秒KO)と重なるワンツーも見られました。 「倒すまではいきませんでしたが、ところどころで入れていましたね。尚弥さんは、さまざまなパンチを組み合わせることができますから、ネリからすればどんなパンチがくるかわからない。さらにステップが速いので、ネリが打っても届かないという感じでしたね」 ――2ラウンドと5ラウンドでダウンを奪った左のショートフックは、コンパクトかつ強烈でした。 「練習でよく見るパンチですが、もらったら終わりです。スローで見ると、尚弥さんはネリのパンチを、目をつぶらずにギリギリでかわして左フックを入れています。もう、人間離れしていて恐怖すら覚えますよ(笑)。『こんなことできちゃうんだぁ』と」