「ピリングス」は物思いにふける少女を描く 機械編みと布帛で表現豊かに進化
コレクションは、過去のアーカイブの再解釈と、新たな挑戦で構成している。不自然なたるみや引きつったドレープを施したシャツ、破れてボロボロになったニット、ところどころに飾ったアリのブローチなどは、これまでブランドがたびたび使用してきたモチーフだ。それを先鋭化し、改めてアイテムに落とし込むことで、どこか切なげな「ピリングス」の残り香をまとわせる。また、ニット主体の「ピリングス」が今シーズン追求したのは、春夏シーズンらしい軽やかさ。ブラとアンサンブルになった機械編みのニットカーディガンや、オーガンジーのように透けるニットTシャツが並んだ。マーベルトを施し、メンズ服の作り方で仕立てた布帛のスラックスも披露し、バリエーション拡大を意識したアイテムが目立った。
リアルクローズの充実
ブランドの裾野拡大へ
今年2月にササビーリーグ傘下入りを発表した際、村上デザイナーは「『ピリングス』がハンドニットブランドだとある程度周知できたから、次は洋服を通して人間像を提案する段階に進みたい」と話していた。今季は41ルック全てがささやかだ。脱構築的なシルエットで少しの毒気をプラスしつつ、シンプルで着回しのきくリアルクローズは徹底しており、サザビーリーグと二人三脚でブランドをより多くの人に届けようとする気概を感じた。
リハーサル時、モデルは「遠くの下を見るように目線を落としてほしい」とウォーキングの指導を受けていた。細いエクステを何本も付けて後れ毛を強調したヘアスタイルで、虚ろな表情を浮かべながらランウエイを進む。ショー後に配布されたプレスリリースは、幼い頃の村上デザイナーの内省を綴っている。「内と外の境界線を引くレースカーテンは自分を守ってくれているようだった。遮光カーテンを閉めなかったのは、外との関係も断ちたくなかったからだったと思う」。内向的な人が勇気を出して外出する様子を描いたといい、全体を通して一抹の“暗さ”をはらむ。分かりやすい派手さはなく、静けさに満ちたコレクションであるものの、そこには人に寄り添う村上デザイナーの優しさがにじみ出ていた。