【映画大賞】藤竜也が助演男優賞 認知症の父役「降りてきたっていうか、入ってきて拝借された」
<第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞(日刊スポーツ新聞社主催、石原音楽出版社協賛)> 受賞イヤーの締めくくりは、「憧れの人」にささげる。藤竜也(83)が「大いなる不在」(近浦啓監督)で認知症を患った大学教授を演じ、第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の助演男優賞に輝いた。 ◇ ◇ ◇ 藤は「もうお祭り騒ぎですよ」と、優しい笑みを浮かべて振り返った。「『大いなる不在』に始まり、『大いなる不在』で終わる感じ」と今年を総括した。 昨年のサン・セバスチャン映画祭(スペイン)コンペティション部門で、日本人初のシルバー・シェル賞(最優秀俳優賞)に輝くなど、国内外でその名演が評価された。だが、「石原裕次郎」を冠した映画賞での受賞は特別。「ちょっと考えられない」と目を細めた。 石原さんを「63年のキャリアの中で、たった1人憧憬(しょうけい)の念を抱いた人物です」とし、「石原さんがお元気でいたら、どういうことをおっしゃるのか。『タツ』って呼んでくれるのかな」と言葉をかみしめた。 認知症の父を演じた「大いなる不在」での役作りは、「何もしていない」という。「今回は降りてきたっていうか、入って来て拝借されたって言いますかね。ですから、本当に何もしてません。珍しいケースで、実際に初めてです」と明かし、「年中こうだったら楽ですけど」。ロケは、関係者の認知症を患った父親が住んでいた家で行っており、「そしたら、お父さんが私に入って来ちゃった」といたずらっぽく笑った。 「私のような、どんくさいのが、よくもまあ、こうやっていさせていただいたなと思います」と長い俳優人生を振り返りつつ、「この言葉がぴったり」と、“無事これ名馬”の格言を口にした。「私はサラブレッドじゃなくてね。でも、そこが良かったんでしょうね」。【川田和博】 ■助演男優賞・選考経過 「人生観まで映し出され、間違いなく存在する説得力があった」(伊藤さとり氏)「彼の1つの頂点」(石飛徳樹氏)と藤を称賛。「変わった役を自然にできる俳優は少ない」(品田英雄氏)と評された池松壮亮との決選投票で選ばれた。 ▼昨年「月」「正欲」「渇水」で助演男優賞の磯村勇斗(32) 藤竜也さん、このたびは受賞おめでとうございます。若輩者である僕が祝言を述べるのは恐れ多いですが、「大いなる不在」でのお芝居は心が震えました。自分が年を重ねても、役者としてスクリーンに生き続けたい。それほど藤さんのお芝居に深く感銘を受けました。このたびは本当におめでとうございます。 ◆藤竜也(ふじ・たつや)本名・伊藤龍也。1941年(昭16)8月27日、中国・北京生まれ。66年渡哲也さん主演映画「嵐を呼ぶ男」で存在感を見せ、70年代の日活のアクション映画「野良猫ロック」シリーズで活躍。76年、故大島渚監督「愛のコリーダ」で第1回報知映画賞主演男優賞受賞。「大追跡」やNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」などテレビドラマにも多数出演。 ◆大いなる不在 卓(森山未來)は、小さい頃に自分と母を捨てた父(藤)が警察に捕まったという連絡を受ける。久々に再会した父は認知症で別人のようになり、父が再婚した義理の母直美は行方不明になっていた。卓は次第に父の人生をたどっていく。