「再エネ5重投資」で電気代は上がるばかり 政府は再エネにかかる本当のコストを示すべきだ
例えば全ての家庭で太陽光発電と蓄電池を導入したとしよう。それでも、原子力・火力発電所や送配電網は減らすことができない。日照がないときにも電気は必要だからだ。 家庭用太陽光が発電する電気の価値は、本当は、卸電力市場の電気の価値で評価しないといけない。そうすると、家庭用の蓄電池など、採算がとれないことは確実だ。 よく現状の家庭用電気料金と比較して採算がとれるかどうかという「グリッドパリティ」を太陽光発電の経済性の基準として持ちだす人がいるが、発送電システム全体を維持するためのコストを負担しなければならないことが分かっていない。 地上に定置する事業用の蓄電池が、いまブームになっており、大量に導入される気配である。これも、気まぐれな太陽風力が一斉に動いたり止まったりするからだ。急激な発電量の変化を緩和するために「需給調整市場」が創設されてオークションが行われ、それで蓄電池が導入されている。 この蓄電池も、太陽光・風力の大量導入などしなければ、全く無用なものだ。この費用は、再エネ賦課金とは別に、本体の電気料金に上乗せされている。 ■ 送電網整備で4重投資 また、太陽光発電、風力発電を大量に建設すると、一斉に発電した時には電気が余る地域がでてくるため、余った電気を他の地域まで送るために、政府は送電網の整備を検討している(図1)。 特に洋上風力を多く建設する予定の北海道に関しては、北海道内だけで1兆円をかけて送電線を増強する。さらに、北海道から新潟まで、北海道から福島までの海底送電線を合計で3兆円かけて建設するという。 再エネの大量導入などしなければ、こんな送電線は当然要らない。
北海道に1000基を超える洋上風力発電所が林立し、そこで発電した電力が何兆円もの送電線で本州に送られてゆく。北海道の素晴らしい自然景観がどうなるかも気になる。 この送電線の費用も、再エネ賦課金とは別に、電気料金の本体に上乗せされる。 ■ 挙句に火力発電建設で5重投資 再エネが大量導入されたことで、火力発電は稼働率が下がった。卸電力市場が自由化されているので、これでは採算がとれなくなる。そこで近年になって古い火力発電所の廃止が相次いでいる。 ところが、これまで見てきたように、再エネだけでは電力を安定供給できない。それで節電要請が全国各地の恒例行事となってしまった。 そこで新しい電源が必要となり、建設費を必ず回収できる新制度として「長期脱炭素電源オークション」なるものがはじまった。落札した電源の中には原子力や蓄電池も含まれているが、LNG火力も含まれている。 なんのことはない、結局のところ、火力発電は必要なのだ。 こんなことなら、従前のように、電力需要のピーク対応として古い火力発電所をきちんとメンテナンスして残しておけば、結局は一番安上がりで済んだはずだ。 1年のうち、ごく稀にしか動かさないのだから、最新鋭・高効率である必要などない。かつてのように電気事業が発電から送電、配電まで垂直統合されていれば、全体からみて最も合理的な判断をしたであろう。