爆売れゲーム『黒神話:悟空』も、中国の出世カルチャーから自由になれない
<8月に発売された中国製アクションRPGゲーム『黒神話:悟空』が爆売れ。3年前は「ゲームは精神的アヘン」と猛批判していたはずの中国官制メディアは「これが中国文化の魅力!」とやたら持ち上げているが......>
中国の古典小説『西遊記』をベースにし、今年8月20日に発売された中国製アクションRPGゲーム『黒神話:悟空』は、わずか4日で売上本数が1000万本を突破し、プレーヤーの同時接続者数300万人という最高記録を達成した。 荒川河畔の「原住民」①/荒川河川敷ホームレスの「アパート」と「別荘」を、中国人ジャーナリストが訪ねた 好成績に中国の官製メディアも「これが中国文化の魅力!」「海外のプレーヤーらが続々『西遊記』を読みあさり、中国文化を強力に海外輸出できた!」と一斉に歓声を上げた。確か3年前の8月には、同じ官製メディアがネットゲームのことを「精神的アヘン」と痛烈に批判していたはずだが。自国産の「精神的アヘン」は大賛美され、「中国文化」に変わった。まるで四川省の伝統劇「川劇」の変面芸だ。確かに面白い。 『西遊記』は間違いなく中国文化の一部である。みんなの英雄、サルのエリートである悟空も、「体制に入って役人として出世する」という古くからの中国出世文化の例外ではない。 『西遊記』の中で、天界の体制に加入したい、官職を求めたい悟空は何度も天界の最高神・玉帝に懇願した。天界で大暴れしたのも、低すぎる官職への不満から。官職に熱心なあまり、「斉天大聖」と自ら名乗ったこともある。天竺(てんじく=インド)への取経の旅の最高の褒美は「成仏」だが、これも言い換えれば、ずっと天界の体制への加入を望んでいた悟空がやっと出世のチャンスをつかんだということだろう。 このゲームも中国文化に強く影響されていることは、粗筋を読めば分かる。悟空は天竺への取経の旅の大功労者だが、天界という体制の命令に従わず、体をバラバラにされ6つの霊宝として生き延びている(プレーヤーは悟空そっくりの「天命人」として6つの霊宝を集める旅に出る)。体制に服従して生きるか、不服従で死ぬか。それが中国人の運命でもあり、中国の伝統文化でもある。悟空のような反逆の英雄もこの運命から逃げられない。 ゲームの結末にはいくつかのパターンがあるが、最も基本的なものは、「天命人」が頭に「金箍(きんこ、金の輪)」をはめて2代目孫悟空になる、というものだ。成功した結果が服従だなんて、なんと奇妙なのだろう。この文化、この思想にしてこのゲームあり。感慨にふけるばかりだ。 ■ポイント <西遊記> 明代の長編小説。呉承恩作。唐の玄奘三蔵が孫悟空、沙悟浄、猪八戒を連れ、妖怪と戦いながら天竺へ仏典を取りに行く話。『三国志演義』『水滸伝』『金瓶梅』と共に四大奇書の1つ。 <金箍> 緊箍児(きんこじ)とも。釈迦に捕まり五行山に封じられた孫悟空は三蔵の弟子になったが、悪行が止まらないため、観世音菩薩が三蔵に呪文を唱えると頭を締め付けるこの金輪を渡した。
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)