大火力を投射する面制圧多連装ロケット弾発射戦車【シャーマン・カリオペ】─戦車ビフォー・アフター!─
戦車が本格的に運用され「陸戦の王者」とも称されるようになった第二次世界大戦。しかし、戦車とてその能力には限界がある。そこでその戦車をベースとして、特定の任務に特化したAFV(装甲戦闘車両)が生み出された。それらは時に異形ともいうべき姿となり、期待通りの活躍をはたしたもの、期待倒れに終わったものなど、さまざまであった。 戦車砲という兵器は、いわば狙撃ライフルのようなものだ。直接見えている敵に向けて、しっかりと狙いをつけて確実に1発ずつを撃ち込む。ゆえに目視できる敵、すなわち敵の戦車をはじめとする車両や、肉眼で確認できる敵の陣地などを撃つのに向いており、ごく簡単に言えば、これを点制圧ともいう。 その一方で、同じ砲とはいえ、戦車砲には、直接に見えない敵に対して砲弾の雨を降らせる野砲のような使い方は向かない。そのため、たとえば建物の中に敵が立て籠もっている村などを攻撃する際には、敵が隠れている建物を狙い撃つことはできるが、村全体に砲弾をばら撒いて敵の動きを抑え込むようなことは苦手だ。そこで、砲兵隊の野砲(やほう)による砲撃でこれを行うが、点制圧に対して面制圧ともいう。 しかし、最前線の部隊が後方の砲兵隊に砲撃支援を要請すると、目標を標定して砲撃を加えるまでにどうしてもいくらかの時間が必要となる。そこで、点制圧ができる戦車に面制圧が可能な兵器を追加装備して、必要に応じてそれを用いればよいのでは、という発想が生じた。 だが、砲弾を1発ずつ撃ち出す砲では、砲兵隊のようにたくさんの砲を用いて一斉に砲撃しなければ、短時間での効果的な面制圧はできない。そこでアメリカ軍は、多連装ロケット弾発射器を、既存の戦車に追加装備することを考えた。 こうして開発されたのが、T-34多連装ロケット弾発射器カリオペである。カリオペとは蒸気式オルガンの1種で、連続するロケット弾の発射音が、そのすさまじい音色になぞらえられてのネーミングといわれる。 カリオペは、合計60本の4.5インチロケット弾発射筒を束ねたもので、M4シャーマン中戦車の砲塔上に取り付けられ、1発ずつの発射も連射も可能であった。いくつかのサブ・モデルが存在し、中には脱着式で発射後の使用済み発射器を投棄できるものもある。 運用の一例として、たとえば、これから歩兵を支援したシャーマン戦車部隊が村に突入しようという時、事前に砲兵に砲撃を要請することなく、複数のシャーマンに装備されたカリオペで制圧射撃を加え、多数のロケット弾による破壊効果が消えないうちに、歩兵とシャーマンが村に突入するといったことが行われた。 なおカリオペは、主に1944年後半から終戦までヨーロッパ戦線で用いられて成果をあげている。
白石 光