福島県田村市都路町の元小学校長 根内喜代重さん(65) 震災と原発事故後、教育環境整備に尽力 記憶と教訓本に
福島県田村市都路町の元公立小校長根内喜代重さん(65)は東日本大震災と東京電力福島第1原発事故発生時、市教委主任指導主事として避難を強いられた都路町の子どもたちの教育環境整備に心血を注いだ。3年後、校長として学校の古里への帰還を果たした。苦労は多かったが地域にとっての学校の意味を再確認した時間だったと振り返る。記憶と教訓を伝えようと一連の経過を書籍にまとめた。少子化により学校の統廃合が進む今こそ「この本が地域に学校がある意味を見つめ直す契機になればうれしい」と望んでいる。 根内さんには忘れられない光景がある。2014(平成26)年4月7日の朝。田村市都路町の古道小に数十人の住民が集まった。手には「おかえりなさい」の横断幕。原発事故で避難していた学校が都路に戻って迎えた入学式の日だった。原発事故発生時に市教委主任指導主事だった根内さんは母校・古道小の校長になっていた。1日に避難指示が解除されたばかり。大勢が学校の再開を喜んでくれている。「通わせて良かったと思える学校をつくらなければ」と覚悟が決まったという。
出版した書籍には震災と原発事故発生後、市教委や教職員が児童生徒の「学び」をどう守っていったかの過程や教職員の思い、子どもたちの姿を詳細にまとめた。市内船引町の空き校舎を使っての学校再開、都路に学校が戻ってからの学校づくりの様子が分かる貴重な資料となっている。 都路で目指したのは地域と共にある学校づくりだった。地域に分け入っての学習を重視し、住民を外部講師とした学習を積極的に展開した。住民との交わりの中で子どもたちが6次化商品を開発するなど、地域づくりの担い手になっていく過程が書籍には生き生きと描かれている。「住民が子どもたちのためなら何だってやるからと言ってくれたことが心強かった」と当時を振り返る。 少子化が進み学校の統廃合が各地で進む。根内さんは都路での実践を踏まえ「どんなに小さくても学校は地域に必要だ」と語る。できあがった書籍を手に「学校の意味をそれぞれの地域で考え、地域が輝いていけばいいなと思っている」と話している。
書籍は「未来をつくる小学生 震災が問いかけた都路の学校と地域」(筑波書房)。税別2500円。