酷暑が働く人の命脅かす、国際労働機関が「熱ストレス」の注意喚起
国際労働機関(ILO)はこのほど、報告書を発表し、世界中で労働者が危険な暑さにさらされている実態を明らかにした。世界の労働人口の7割に当たる約24億人が危険なレベルの暑さにさらされ、2020年には熱波によって4200人の労働者が亡くなったと推計した。ILOは、熱中症や持病の悪化などを引き起こす「熱ストレス」の危険性について注意喚起する。(オルタナ副編集長=吉田広子) 熱ストレスとは、身体が生理的に耐えられる限界を超えた暑熱環境にさらされることを指す。人間には体温を一定に保つ機能が備わっているが、熱ストレスを受け続けると、体温調節機能が追いつかなくなり、体温が正常範囲を超える。 その結果、熱中症をはじめ、糖尿病や心疾患など持病の悪化、睡眠障害など、さまざまな健康障害を引き起こす危険性がある。事故や怪我のリスクが高まるほか、生産性の低下も招く。 ILOの報告書によると、年間で2285万人が健康被害に遭い、1万8970人が死亡しているという。 最も頻繁に過度の暑さにさらされる労働者はアフリカで92.9%、アラブ諸国で83.6%、アジア太平洋地域で74.7%に上る。農業や建設業などの屋外労働だけではなく、工場内や作業服を着ている場合などでも、熱ストレスが起こる可能性がある。 対策として、職場環境の改善(換気、遮光、冷却)、労働時間や休憩時間の調整、水分補給、労働者の服装を敵したものに変える――などを挙げる。 ILOは、世界21カ国の労働環境の法整備についても分析した。日本では、労働安全衛生法などに基づき、雇用主は健康障害を防止するために必要な措置を講じることが義務付けられている。 厚労省は、作業の程度別に「暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)」を設け、WBGT 25℃(気温30℃前後相当)を超えた場合、重い材料を運ぶような激しい作業を控えるように呼び掛ける。WBGT 30℃(気温34度前後相当)を超えると、軽作業でも推奨しない。 しかし、猛暑が続くなか、日本でも過酷な環境で働き続ける労働者は多い。 ジルベール・F・ウングボ・ILO事務局長は、「これは人権問題であり、労働者の権利の問題であり、経済問題でもある。労働者を保護するため、年間を通じた暑さ対策の計画と法律、職場における熱ストレスの調査と介入策を講じることが必要だ」とコメントしている。