藤原奈緒の「2024年 年間ベストドラマTOP10」 テレビドラマは自分を映す鏡のようなもの
リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2024年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第1回の選者は、ライターの藤原奈緒。(編集部) 【写真】ラストシーンも話題となった第2位の『光る君へ』 1.『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系) 2.『光る君へ』(NHK総合) 3.『虎に翼』(NHK総合) 4.『燕は戻ってこない』(NHK総合) 5.『お別れホスピタル』(NHK総合) 6.『宙わたる教室』(NHK総合) 7.『不適切にもほどがある!』(TBS系) 8.『海に眠るダイヤモンド』(TBS系) 9.『西園寺さんは家事をしない』(TBS系) 10.『海のはじまり』(フジテレビ系) 「毎日少しずつ積み上げてきたすべての記憶が未来の自分を作っている」と『アンメット ある脳外科医の日記』のミヤビ(杉咲花)は言った。テレビドラマと私たちの日常もまたそうだ。こうやって1年分のドラマを振り返る中で、私は(恐ろしいことにもう既に忘れかけている)その時生まれた自分自身の感情と向き合う。テレビドラマは、時代や、その人自身を映す鏡のようなものだ。ドラマを通して多くの視聴者は、過去・現在・未来の自分や、大切な誰かの人生に思いを馳せる。 『アンメット』は杉咲花、若葉竜也が織りなすミヤビと三瓶の日常の手触りのようなもののリアルさに圧倒された。記憶障害のため、「積み上げてきたすべての記憶」を日々忘れてしまうミヤビが、1日1日を大切に抱きしめて生きていく姿、そして、彼女が決して1人ではないことは、永遠ではない、私たちが生きる日々の愛おしさを何より強く実感させてくれた。 異色の大河ラブストーリーとも言える『光る君へ』は、誰かが誰かを思うことで生まれた「物語」が人を動かし、政治、国をも動かしていくことのすごさを描いた作品だった。そして『源氏物語』が描いた「人の一生はむなしい」ということもまた、最終話における、それぞれの光る君を失った後にそれでも生きていかなければならない人々の悲哀を通してしっかりと描いてみせた。『虎に翼』の台詞を何度心のメモに書き留めたことか。寅子(伊藤沙莉)の思いはかつての自分自身が辿ってきた思いだった。『燕は戻ってこない』は桐野夏生による原作小説の面白さに加え、長田育恵の脚本の良さが光る。決して共感できる登場人物たちではないが、欲望の根底にあるそれぞれが抱える孤独はよく知っているものだった。そして、「私は私でありたい」と願うリキ(石橋静河)の思いは、『光る君へ』のまひろ(吉高由里子)と『虎に翼』の寅子にも通じると思った。 沖田×華原作、安達奈緒子脚本の『お別れホスピタル』。名優たちが演じる、患者とその家族が織りなす、死を前にした物語は、そこに確かに生きた証を刻み込もうとするかのような強烈さがあった。『宙わたる教室』は伊与原新原作、澤井香織脚本。窪田正孝と小林虎之介の素晴らしさに加え、登場人物一人一人の思いを丁寧に描きながら、仲間となった彼ら彼女らの真っ直ぐな軌跡が美しかった。 『不適切にもほどがある!』だけでなく『新宿野戦病院』(フジテレビ系)、『終りに見た街』(山田太一原作/テレビ朝日系)と、宮藤官九郎が立て続けに描いた現代の姿。すべてをベストに挙げたい気持ちを抑えて、今年を象徴する俳優とも言える河合優実演じる純子を中心に、令和と昭和を俯瞰して描きつつ、避けられない震災と死と主人公が対峙する姿を描いた『不適切にもほどがある!』を特筆すべき作品として挙げる。野木亜紀子脚本『海に眠るダイヤモンド』は、長崎県・端島を舞台に高度経済成長期と現代を繋ぐ壮大な枠組みの中で、個性の異なる恋がキラキラと輝くなんとも切ない構造になっている。 『西園寺さんは家事をしない』は、かわいくて少し風変わりな登場人物全員が揃いも揃って楽しそうなのでこちらまで嬉しくなってしまうドラマというだけでなく、新しいホームドラマとしてたくさんのポジティブなアイデアをくれた。血の繋がりはなくても「ニセ家族」になって支え合えばいいと言う『西園寺さんは家事をしない』と、同時期に放送された生方美久脚本『海のはじまり』における、それぞれが「選べなかったつながり」のその先を優しく持ち寄って生きていく最終話の姿は、どちらも自由で、これからの私たちの日々を照らしていた。
藤原奈緒