まるでタイムカプセル、日本家屋で味わう喫茶が人気 「壊したらもう造れない…」100年以上前に建てられた故郷の自宅を開放
■松本城の近く 外国人観光客らに人気
長年暮らした都内から今春、故郷の長野県松本市に戻った東正紀さん(70)が、明治時代に建てられた同市丸の内の実家を修繕し、一角を喫茶などを楽しむことができる「茶noma(ちゃのま)」として開放している。室内は古い家具に囲まれ、縁側や庭が見える。松本城にも近く外国人観光客らの人気を集めている。 【写真】土蔵に眠っていた家具や昭和の家電を並べたフリースペース「茶noma」
東さんは18歳で上京。アルバイトを経てテレビ番組制作会社に就職し、1993年に独立して以降は番組制作会社を経営。45年ほど番組制作に携わり、数々のドキュメンタリーをつくってきた。
■蔵の床や縁側を半年がかりで修理
実家で母のテル子さん(92)と暮らしていた弟が2022年8月に亡くなったことから帰郷を検討。空き家対策が全国的な課題となる中、日本家屋をいいなと思ってもらい、価値を知ってもらうことで保存につなげたい―と考え、客を招いて昔ながらの日本家屋に触れてもらう空間を思いついたという。
昨年8月から半年かけて、傷みが激しかった蔵の床や縁側を直し、母屋の壁を塗り替えたり建具を調整したりして4月にオープン。大工から言われた「壊したらもう造れない」との言葉が印象に残ったという。
敷地内の土蔵に眠っていた家具や昭和の家電を引っ張り出し、母屋に並べた。ゆっくりしてほしいと、利用料はドリンク1杯付きで1時間500円。オープン以来観光客の利用が多く、半数を占める海外からの旅行者にも好評で「のんびりできた」と喜ばれるという。
■柱の一本一本に「職人のものに対する愛」
東さんは空間を見回しながら「職人のものに対する愛を感じる」と話す。木材をどこにどう使うか考え「おまえの役割はここだ」と柱やはりの一本一本を据えた職人の姿を思い浮かべる。職人の心が通っていることが、癒やしを感じる空間につながっているのではないか―と話す。
テレビ番組を作っていた時は、視聴者の反応を直接知ることはできなかったが、茶nomaを開いて「(客の)生の反応を見られた」と喜ぶ。いろんな人が交流し、表現する場所にしたいと来月には写真家の友人の展覧会も予定している。東さんは「昔の街並みが時の流れで消えていく中でタイムカプセルのように家が残っている。明治、大正、昭和の時間旅行を楽しんでほしい」と話している。