こどもを狙う「性的グルーミング」の危険性
こどもの性被害をめぐり、性的グルーミングの危険性が指摘されています。警察庁や神奈川県警で犯罪被害者支援の経験もある、追手門学院大学心理学部教授の櫻井鼓さんに聞きました。【聞き手・須藤孝】 【写真】子どもの被害「身近で特別でない」 性教育で学ぶ自分の「境界線」 ◇ ◇ ◇ ◇ ――性的グルーミングとはなんでしょう。 ◆わいせつ目的で、若年者を心理的に手なずけることです。加害者が被害者との間に関係性を作って、性加害をする過程があります。 当初は目的が隠され、被害者が加害者を信頼している場合もあるので、被害者が加害者を批判できないこともあります。 ◇周囲から見えないつながり ――SNSの影響がよく指摘されます。 ◆グルーミング自体はSNSを介さなくても起きます。ただオンラインでのグルーミングでは、まったく関係が無かったところから関係ができることがあります。 対面でのグルーミングでもSNSが効果的に使われます。私の知っている範囲ではSNSがまったく使われていない例はほとんどありません。 保護者や周囲がわからないなかで、被害者と加害者が直接つながることを可能にします。加害者が被害者を脅かすようなことも起こりやすくなります。 ◇こどもは信号を出すことがある ――被害が起きていることに周囲が気がつきにくい場合があります。 ◆多くの場合、こどもはなにかおかしいと思っています。信号を出すことがあります。しかし、その時に周囲から「指導の一環でしょ」などと言われると、こどもはおかしいと感じていても「違うんだ」と思ってしまいます。 おかしいというこどもの感覚を周囲が受けとめて、「これはおかしいことだ、悪いことだ」とはっきりこどもに伝えることが、こどもを救うことになります。 グルーミングする加害者は周囲もグルーミングすることがあり、信頼されている場合がありますから、「あの人がまさか」となることもあります。こどもが言っても、なかなか信じてもらえないこともあるのです。 ――大人はどうすべきでしょう。 ◆こどもの伝え方はいろいろです。大人が見抜くのは難しいことがあります。「こどものウソ」のなかに真実が隠れていることもあります。 被害が明らかになった状況を聞くと、保護者がこどもの信号をキャッチできています。こどもに、重ねて聞いたりしています。「あなたそう言うけど、こういうことされたのでは」と聞き返して、「実は」ということがあります。 ふだんと違う様子、直接ではなくても本人が訴えてきたこと、体調が悪い、眠れないなど、普段こどもをみている保護者が信号を逃さないことが大事です。 こどもはSOSを出すのですが、ちょっとしたSOSです。日常会話のなかで、たとえば送り迎えの車の中で、「そういえば」とこどもが言うことのなかに、なにかが含まれていることがあります。 保護者がひっかかったときに、そのひっかかりを大事にして、こどもに問いかけてほしいと思います。しつこく聞くのではなく、こどもの変化をよくみておくことが大事です。 ――加害者が身近な人であったりすると難しくなります。 ◆加害者がすでに関係のなかに入ってきている場合があります。その時には、いかにこどものサインに気がつけるかが問題になります。 対面グルーミングの場合は、地域の人、教員、塾講師のような関係のなかで起きやすい傾向があります。本人が訴えやすく、被害が起きない環境を作ることが大切です。 ◇問題のおおもとは ――こどもの弱い立場につけ込んでくるのですね。 ◆特にオンラインの場合は、孤独感や自信のなさなどを狙ってくるやり方があります。臨床でケアにあたっていると、問題のおおもとはなにかは大切だと感じます。性的な被害にかぎりませんが、性的な被害だからこそ大切なことだとも思います。 こどもをサポートできる関係を築けばよいのに、それをわいせつ目的に利用する加害者がいます。悪いのは加害者だ、ということは繰り返し伝えなければなりません。 ――何が大切なのでしょう。 ◆被害に気づけるようにする、イヤだったら逃げる、声を出す、そうした対処ができるようにすることは大事です。最終的には被害に気がつけるのはこども自身です。こういうことをされたら、それはおかしいことだ、としっかり伝えておくことは、大切なことです。包括的性教育が力を発揮するところです。(政治プレミア) 性犯罪・性暴力の相談窓口 ・内閣府のワンストップ支援センター ♯8891(はやくワンストップ)=年中無休、24時間 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html ・警察庁の性犯罪被害相談電話 #8103(ハートさん)=年中無休、24時間 https://www.npa.go.jp/higaisya/seihanzai/seihanzai.html ・内閣府のSNS相談「Cure time」 https://curetime.jp/ =午後5~9時