実話を基にした“泣ける洋画”の傑作は? 珠玉の名品(3)心が晴れやかになる…映画愛に満ちた奇跡の実話とは?
世の中には、自分には決して真似できないと思うような苦しい戦いを乗り越えてきた先人たちが存在する。今回は、実話を基にした、心が温まる洋画を5本セレクト。世界各国で、仕事や病、時には国家や迫害者とひたむきに戦った人々の真実を描いた作品をご紹介する。第3回。(文・阿部早苗)
『エンドロールのつづき』(2021)
上映時間:112分 原題:Last Film Show 製作国:インド、フランス 監督:パン・ナリン 脚本:パン・ナリン キャスト:バビン・ラバリ、リチャー・ミーナー、バベーシュ・シュリマリ、ディペン・ラバル、ビーカス・バータ 【作品内容】 インドの田舎町で父親のチャイ店を手伝う9歳のサマイは、家族と行った初めての映画鑑賞をきっかけに映画と出会い、やがて映画製作の夢を抱く。インドの映画監督パン・ナリンが自身の実体験を描いた感動作。 【注目ポイント】 これまで映画製作はもちろん、BBCやディスカバリーチャンネルでドキュメンタリー映画も手掛けてきたパン・ナリン監督。 その経験を生かした本作は、自身の故郷でもあるグジャラート州を舞台に、幼少期のナリン監督が映画との出会いから旅立ちまでを描いた作品だ。 父のチャイ店を手伝いながら学校に通う9歳のサマイ(バヴィン・ラバリ)は、ある日、家族とギャラクシー座へ映画を観に行く。厳格な父親は、映画を低劣なものだと思っているが、信仰するカーリー女神の映画は特別だった。 生まれて初めて観た映画に心を奪われたサマイは、学校をさぼってギャラクシー座に忍び込むも見つかって追い出されてしまう。 そんなサマイの様子を見ていた映写技師のファザル(バヴェーシュ・シュリマリ)は、サマイのお弁当と引き換えに映写室から映画を観せることを提案する。 ファザルのおかげでアクション映画や恋愛映画など様々なジャンルの作品と出会うことになるサマイは、さらに映写機のノウハウも学ぶ。 友達と保管庫から映画フィルムを盗み出し、映写機作りに奮闘するサマイは、あえなく警察に捕まるも鑑別所の中で映像に加える音のヒントを得る。 やがて、ギャラクシー座が不況で閉館。喪失感にさいなまれたサマイは、映画製作に必要な技術を学ぶために村を出ることを望む。 主人公の少年サマイを演じたのはバヴィン・ラバリ。オーディションで約3000人の中から選ばれ、本作がデビュー作となったバヴィンは、初演技とは思えないほど表情豊かに主人公を演じきっている。 『ニューシネマ・パラダイス』(1988)を思わせる映画愛にあふれた本作だが、主人公の父親が営むチャイ店の厳しい現実を描くことで、所得格差が著しいインド社会の現実も映し出す。 しかし、サマイは逆境をはね返す強さを持っている。彼の映画愛は厳しい父親の心を動かし、勉強ができる環境へと家族に送り出してもらうことに成功する。厳しくも明るい未来を感じさせる実話ベースの逸品だ。 (文・阿部早苗)
阿部早苗