「密室化」するデジタル政策形成、事業者の意向を色濃く反映…個人情報保護法見直し巡り
本部長の平井卓也議員は取材に対し、「個情法はあらゆる業界の事業者とユーザーのやりとりを規律する、デジタル社会の基本となる横断的で強力な法律。一部の人間で決めていいものではない」とその意図を説明する。
結局、この提案は6月のデジタル重点計画などに盛り込まれることはなかった。だが、霞が関の中には「規制を緩めなければ権限を奪うぞ、という恫喝だ」と受け止める者もいた。
仮に個情委の政策立案機能が他の機関に移された場合どうなるだろうか。
「法律の執行を担当する行政機関が、執行を通じて専門性を高め、その中で蓄積された知見を法律の見直しに生かしていくのが通常のやり方。執行と政策立案が分離されれば、そのサイクルが崩れて立案能力は低下し、穴だらけの法律になってしまうのではないか」。情報法研究者として長年、世界のデータ保護法制を見てきた中央大学の石井夏生利教授はこう懸念する。日本の保護レベルが落ち、海外のデータ保護法制との整合性がとれなくなれば、国際的なデータ流通にも支障がでかねないという。
「個情委はガードが堅い」
昨秋以降、3年ごと見直しの作業が本格化するなかで、各方面から「最近の個情委はガードが堅い」「民間の声を聞かない」という不満が聞こえていたのは事実だ。
もっとも、今回の見直し作業では、個情委は昨年11月以降、現時点まで15回にわたり関係団体や有識者のヒアリングを開催し、経済団体は13団体が呼ばれ、このうち経団連や新経済連盟など4団体は2度も呼ばれている。消費者団体はたった1団体で一度きりだ。利用者よりむしろ事業者の声に耳を傾けているという見方もできるだろう。
これについて、ある業界団体のロビイストは「正式なヒアリングはこちらが意見を述べるだけ。非公式の場で、腹を割って話し合いたいんだ」と訴える。たしかに、民間事業者のもつ知見や、最新の技術動向、ビジネスの実情などを政策立案者に伝えることができれば、よりよい政策の実現に役立つかもしれない。技術やビジネスの変化のスピードが速いデジタル分野の政策ではなおさらだ。だが、当然ながら、そこでなされる情報提供や提案が、当の事業者に都合の良いものにならないという保証はない。