オタール・イオセリアーニに献杯。 Blu-rayで作品を観て、惜しみ、悼みましょう(できればグラス片手に!)
だがこの長篇デビュー作は2年後の68年にカンヌ国際映画祭に出品され、国際批評家連盟賞を受賞。一躍、その名が世界に知られることとなる。その後、音楽をモチーフにした「田園詩」(76)などを祖国で撮った後、フランスに移住。検閲はなくなったが、代わりに待っていたのは商業主義との葛藤だった。 ここでもストーリーボードがものを言う。手がける作品は予算も少なく、早く撮影を済ませなくてはならない。ワンシーンワンショットの長回しを多用し、カットバックやクロースアップは極力排した。「全て一つの流れの中で撮影している。そのための責任ある態度は、ストーリーボードに忠実だということです」とインタビューで語っていた。
新天地でも3~5年おきに長篇を生み出すが、日本では2002年に「素敵な歌と舟はゆく」(99)が劇場公開されたのが初お目見えだった。真面目と不真面目、悲観とほほ笑みが背中合わせに同居していて、他に類を見ないおかしみがじわり込み上げる。そんな独特の映像世界は日本でも幅広いファンを獲得するが、中でも人気に火をつけたのが、03年に公開された「月曜日に乾杯!」(02)だろう。ベルリン国際映画祭で監督賞などに輝いたこの作品は、日本公開に先立つ02年12月に東京フィルメックスで上映され、筆者もこのときに初イオセリアーニ体験をした。当時、新聞社の社会部デスクとして切った張ったの毎日だったのが、ちょっとばかり気持ちが軽くなったような気がしたものだ。
23年、劇場初公開の旧作を含む全作品を網羅
現在、全15作品が3つのBlu-ray BOXにて発売中。長篇短篇問わず全てのイオセリアーニ作品を網羅していて、余すところなく味わい尽くすことができる。中でも23年に開かれた「オタール・イオセリアーニ映画祭~ジョージア、そしてパリ~」で劇場初公開された長篇の「月の寵児たち」(84)、「そして光ありき」(89)と、テレビ用ドキュメンタリー「唯一、ゲオルギア」(94)はBlu-ray化も初めて。アフリカで撮影した「そして光ありき」は原始的な生活を続ける部族の日常を描いた異色作だが、文明によって伝統文化が破壊されていく流れは、なるほどイオセリアーニらしい寓話性だ。3部構成で4時間を超す「唯一、ゲオルギア」には、離れて暮らす故国ジョージアへの愛惜の念がぎゅっと詰まっていて胸に迫るものがある。 8年前の取材で「いつか富士山を背景に映画を撮ってみたい」とまだまだ創作意欲を燃やしていた監督だったが、残念ながらもう新作にお目にかかることはできない。だがイオセリアーニ作品の滑稽さ、奥深さは、何度見ても飽きることはない。「最初から最後まで責任を持って作るのが映画作家の務めです」と言い切っていた在りし日の姿を偲びつつ、ディスクによってはストーリーボードの特典もついたBlu-rayを楽しみながら、今宵も一献傾けたい。 文=藤井克郎 制作=キネマ旬報社