49歳長女が激怒した…父が残した「長男びいき」の遺言書を逆手に取った「復讐の全容」
長女が特例の適用に同意しなかった理由
相続税では「小規模宅地等の特例」という一定の適用要件を満たした場合に、例えば、居住用(特定居住用宅地等)であれば、土地の評価額から80%の割合を減額できる制度があります。 今回のケースでは、父・拓郎さんは独り暮らしで、貴之さんも里香さんも賃貸物件に住んでいるため、小規模宅地等の特例を利用できます。自宅の土地の評価額は4,000万円ですが、特例を利用できれば、課税遺産総額に算入される額は800万円となり、相続税の総額は515万円になります。 貴之さんがほぼ全ての財産を相続するので、貴之さんが負担すべき相続税額も500万円程度になるはずです。しかし、税理士は1,000万円もの相続税額が書かれた納付書を用意していたのです。 驚いた貴之さんが高額な納付額になっている理由を尋ねると、里香さんが小規模宅地等の特例の適用に同意しないというのです。 母・幸子さんは、父・拓郎さんよりも前に亡くなっているため、拓郎さんはずっと独り暮らしをしていました。貴之さんと里香さんはそれぞれ賃貸物件に住んでおり、二人とも小規模宅地等の特例の適用が可能です。 ただし、小規模宅地等の特例は、特例の対象となりうる宅地等を取得した全員の同意がないと特例の適用ができないのです。 例えば、相続人同士の仲が悪く、別々に申告書を提出した場合に、それぞれが異なる土地に小規模宅地等の特例を適用しようとすることを防ぐため、このような制限がされており、そのことを知っていた里香さんは貴之さんへの嫌がらせとして、小規模宅地等の特例の適用に同意しなかったのです。
不動産を共有名義で相続するのはリスクが伴う
父・拓郎さんの自宅は閑静な住宅街にあり、駅からも近く便利な場所であるため、不動産屋の話によればすぐ買い手が見つかるだろうとのことでした。 しかし、実家を売却することにも里香さんは首を縦に振りません。相続財産に預貯金がないことから、貴之さんが納税資金に困ると予測できたからです。 里香さんがここまで怒っていることに気がついていれば、拓郎さんは遺言書をこのような遺産分割の内容にはしなかったことでしょう。貴之さんに自宅の持ち分全てを相続させ、貴之さん一人で自宅を売却できるようにすれば、貴之さんが資金繰りに行き詰る状況に陥ることはなかったと思われます。 さらに、里香さんが弁護士を通じて遺留分侵害額請求をしたとしても、自宅を売却して得た資金で遺留分を支払うことができたのです。 里香さんは経済的に自立しているため、父の財産を当てにはしていませんでした。そのため遺言書の内容を逆手に取り、積年の恨みを果すことを選んだのです。 現預金や上場株式のような遺産分割しやすい財産がないからといって、不動産を共有名義で相続するのはリスクを伴います。夫婦での共有、親子での共有であれば、共有状態はその後の相続で解消できます。しかし、兄弟姉妹の場合は、その子どもが財産を引き継ぐことになるため、その後の相続で共有状態の解消が難しくなります。 不動産を売却したいと思っても、今回のように売却の足並みを揃えられないこともありますので、不動産を共有名義で相続することを選択する場合には、相続後について相続人の意思確認を行ってからしたいものです。 【著者プロフィール】 高山弥生 1976年生まれ、埼玉県出身 一般企業に就職後、税理士事務所に転職。「顧客にとって税目はない」をモットーに、専門用語をなるべく使わない、わかりやすい本音トークが好評。税理士事務所の入所当初、知識不足で苦しんだ自らの経験をもとに、「高山先生の若手スタッフシリーズ」などを出版している。『税理士事務所スタッフは見た! ある資産家の相続』『消費税&インボイスがざっくりわかる本』などがある。 ■ベンチャーサポート相続税理士法人:https://vs-group.jp/sozokuzei/ ■相続専門税理士チャンネル(YouTube):https://www.youtube.com/@souzoku
高山 弥生(税理士・ベンチャーサポート相続税理士法人)