表参道に吹く風―「生命回帰社会」の建築
生命力の本源に向かう
筆者は長いあいだ、風土的な建築様式の研究を続けてきた。 伊東の建築は、中央アジアの草原を移動する「皮膜式(テント構造)」の様式、あるいは熱帯雨林に多い鳥の巣のような「編成式(柔らかい草や蔦を編む)」の様式に近い。つまりヨーロッパの石造建築、日本の木造建築といった本格的な様式の周縁にある風土的な様式であり、それは生物の形態にも似ているのだ。 伊東の建築を見ていると、モダニズム以後の建築は、歴史回帰でも、ハイテクでも、脱構築でもなく、むしろ生命体に向かうような気がしてくる。ひょっとするとわれわれは、情報化社会でもグローバル社会でもなく、「生命回帰社会」に向かっているのではないか。 もちろん科学技術は常に前進して止まないのだが、人間の精神は生命力の本源に回帰しようとする。この連載の最初に述べたように、人類は都市化する動物であると同時に、それに対する反力をもつ動物なのだ。 近代から現代、人間の社会は工業化社会に向かい、情報化社会に向かい、そして生命回帰社会に向かう。そうせざるをえない力がはたらいているような気がする。 そんなことを感じさせる建築家は、伊東の他にいない。 風は、生命力の本源に向かって吹いている。