菊池雄星を「逃すわけにはいかなかった」アストロズの思惑 青木宣親を放出してWS制覇した2017年と似ている?
【アストロズでプレーした日本人は過去ふたり】 『MLB.com』のマーク・フェインサンドらによると、アストロズはレイズからヤンディ・ディアスを手に入れようとしていたらしい。だが、レイズはディアスをどこにも放出しなかった。一塁手を獲得できなかったことも、通常より大きな見返りを差し出し、菊池を得た理由のひとつだろう。逃すわけにはいかなかった、ということだ。 とはいえ、アストロズが菊池をローテーションに加えたのは、若手3人の放出に見合う投球ができる、ポストシーズンにたどり着くためのブースターになる、と判断したからにほかならない。 今季の菊池は防御率こそ4.75ながら、奪三振率10.12と与四球率2.33、FIP3.65を記録している。FIPはフィールディング・インディペンデント・ピッチングの略。簡単に説明すると、投球そのものを評価するため、守備の要素をできるかぎり排除した防御率だ。 アストロズは、昨シーズン後半に菊池が記録した防御率3.39(FIP2.81)の再現を期待しているのではないだろうか。あるいは、各球種の割合や配球の組み立てなどに何らかの変更・調整を施すことにより、そうできると考えているのかもしれない。 スタットキャストによると、今シーズンの菊池のフォーシームは平均95.6マイル。この球速は、6シーズンのなかで最も高い。それまでの最速は、2021年と2023年の平均95.1マイルだ。 なお、アストロズでプレーする日本人選手は、2008年~2010年の松井稼頭央と2017年の青木宣親(現・東京ヤクルトスワローズ)に続き、菊池が3人目となる。マウンドに上がるのはふたり目だ。2017年6月末の試合で、青木が1イニングを投げている。 この登板の1カ月後、青木は当時ルーキーだったテオスカー・ヘルナンデス(現ロサンゼルス・ドジャース)とともにアストロズからブルージェイズへ移籍した。青木のトレードと菊池のトレードは、同じ2球団であることに加え、アストロズがブルージェイズから左投手を獲得したことも共通する。ブルージェイズで先発投手として投げていたフランシスコ・リリアーノは移籍後、ブルペンに回った。
この年、アストロズはワールドシリーズ初優勝を成し遂げた。のちにホームの試合で相手バッテリーのサインを盗んでいたことが発覚したが、それだけで勝てたわけではない。このシーズンの勝率は、ホームの.593に対してアウェーは.654だ。 青木とヘルナンデスを放出してリリアーノを獲得した時、アストロズは地区2位に15ゲーム差以上をつけていた。現在はシアトル・マリナーズと首位争いをしている。ワイルドカードの可能性もあるが、3番手との差はマリナーズとの差より大きい。それだけに、菊池のここからの投球はポストシーズンへ進めるかどうかを左右する、重要なファクターとなり得る。
宇根夏樹●取材・文 text by Une Natsuki