人?ネコ?ペット化実現はどちらがきっかけだったかーイエネコ起源の謎(下)
ヒトが先かネコが先か?
さて吾輩の先祖達は具体的にどのようにして、ヒトとの共存をはたしたのだろうか?人間の住処である村落や家屋に居候を決めこむ直接のきっかけとは、はたしてどのようなものだったのだろうか? ネコ飼育の始まりは農耕化によるネズミ駆除目的?イエネコ起源の謎(中) 吾輩の感じるところ、まず2つの異なるシナリオが思い当たる。まず「ヒトがうまいことネコを説き伏せて、ネコを手なずけた」 ── いわゆるヒト主体のシナリオ。一方、特定のネコの個体(及び個体群)が、偶然ヒトと共存しやすい性質や行動様式、習性などを手に入れた可能性もあるだろう。(同じようなペット化における異なる二つの仮説は、イエイヌの起源の記事においても紹介した。) - ヒトを主体とする仮説は今のところよりポピュラーな印象を受ける。ネズミを取り除くため、愛玩用として等の理由があげられるだろう。しかしこの仮説を検証する時、イエネコの起源における一番興味深い時代(約5000年から1万年前)のデータは、残念ながら非常に限られている。前回紹介した最古のイエネコの骨(約9500年前キプロス島産:Vigne等2004 )も、人に確実にペットとして飼われていたかどうか、確実な証拠はないように吾輩には映る。偶然、人家の周囲に死体が埋められた、又は食用として用いられていた可能性も邪推したくなる。 約1万年前頃、人類はどのようにしてネコと交流(のようなもの)をはかったのだろか? 言葉(呼びかけ)や身振り手振り(特定の行動様式)、餌付けなど方法がとられたのかもしれない。最近とくに動物心理学や行動学の研究者に、犬や猫が具体的にどのような人間の動き──例えばアイコンタクトや呼びかけ──に反応するのか、詳細な研究がされている。まだネコペット化起源の「カギ」となりそうなはっきりとした答えは聞いたことがない。近い将来のさらなる興味深い研究に期待したい。 ネコ主体説 ── ネコがヒトに自分から近づいてきて、ペット化が進行したシナリオも、論理的に筋はとおっているように響く。しかし具体的にどのような性質が、ネコを人のもとへと導いたのだろうか? イエネコの愛くるしい姿は、子猫の性格を成長してからも残しているのかもしれない。(トラやライオンでも子供の間は人にある程度なついている。)全てはある特定の、おそらく成長や行動に関する、遺伝子における突然変異によって始まったと思われる。しかし具体的な「猫ペット化覇道王道摩訶不思議遺伝子」のようなものの存在の発見は、今のところ聞いたことがない。 Ottoni等(2017)の研究はイエネコに独特とされる「斑点の混じったまだら模様(いわゆるブチ柄)」の出現が、中世において初めて現れたと、mDNAのデータをもとに推定している。このまだら模様は、トラ柄のものとは遺伝子上はっきり異なるそうだ。他のネコの種において格子模様の体毛はトラだけでなく他の種においても、程度の差こそあれ広く見られる。このまだら模様の出現は、イエネコの進化上一度きり起きたと考えられている。そのため全てのイエネコの個体が、単一の個体(及び個体間)から進化して今日に至る、いわゆる「イエネコ単一起源説」を支持する証拠の一つとされる。