「どう作りたいかではなく、何が求められているのかを考え抜く」 MoMAの増改築を手がけた「谷口吉生さん」の“エゴとは無縁”な建築家人生
人目につかない素材まで厳しく選び抜く
完璧主義者だった。 「人目につかない素材まで厳しく選び抜く。でも建物自体は穏やかなたたずまいで、すっと入っていける雰囲気なのです。池を配置し、水面の静謐な様子に観客が一息つけて展示に思いをはせられる工夫もしていました」(仙田さん) 自分が直接関われる量の仕事しか引き受けず、建築家同士で争うのは好まないとコンペに参加しなかった。MoMA増改築のコンペに参加したのは例外である。 意欲と研究熱心さは変わらない。2004年には広島市の清掃工場を手がけ、鈴木大拙館(11年)では、禅の思想を空間から感じられないだろうか、と試みた。 24年12月16日、肺炎のため87歳で逝去。 設計した建物の補修に加われることを喜んだ。建築家としての矜持と尽きない思いが込められていたのだ。 「週刊新潮」2025年1月2・9日号 掲載
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