又吉直樹が来店し「勉強になりました」…1皿2000円台のスパイスカレー店が更なる高級化に挑む理由
このお店で一番の推しである「3種3TOP盛り蜂蜜キーマ(4種盛り)」(2800円)を頼んでみた。 さて、オーダーから待つこと数分。登場したのが、深い紺色の大皿に盛られた3種類のスパイスカレーの上に、3種類のトッピングと蜂蜜キーマが彩り豊かに添えられている。皿の絵柄だと思ったら、皿のフチにきゅうり(緑)・にんじん(赤)・大根(白)・茄子(紫)のピクルスが、大胆に盛り付けられている。 一口、スプーンですくい、口にすると…スパイシーさの中に酸味と旨味が広がり、ジューシー。そこに、サルサトマトの辛味と、タルタル玉子やポテサラの甘味、蜂蜜キーマの辛くないマイルドな肉汁の旨味が混じり合い、深みある味わいが口内に広がった。 「チキンが定番です。他の2種が不規則に、お肉がビーフになったり、ポークになったり、海鮮がエビになったり、梅雨前にはホタルイカになったりと、その日の仕入れ状況でチョコチョコ変わります」 ◆岡野氏が考える「高級路線」の中身 なぜ大衆的なスパイスカレーではなく、1.5~3倍高価な食材を厳選し、提供しているのか。 「『スパイスカレーって汗が出て、辛くて美味しいけど、食べた後、疲れるし、喉が渇く』と感じているお客様もわりと多いのではないでしょうか。’23年時点ではまだ1500円の食文化のため、仕方がないのですが、その“B級グルメ的な空気感”を変えたかった。 少し視野を広げてみると、例えば、高級フレンチや寿司屋は食文化がしっかりとありますから、ランチでも、2~3万を気持ちよく支払えるお客様がたくさんいらっしゃるワケで…。まず、そういったお客様に対して、当店のコンセプトを深く知っていただければ、シェアの獲得は十分できると考えているワケです。 富裕層の方々はそういう強いこだわりを持ったスパイスカレーを待望しているのだと思います。 実際のところ、年間350日以上、1人で仕込みを行ってますが、イチからダシをとっているため、年5000食しか仕込めない。それを逆手に長所とし、月に1回ご来店くださるコアなファンを地道に500人ほど作れば、当店のカレーは完売できる計算です。あとは『お客様に根気強くマーケティングすればいいだけだ』と気づいたワケです」 岡野氏はスパイスカレーを通して、ある野望を抱いている。 「当店ではカレーの販売価格が2200円~ですが、物価上昇率にもよりますけれども、段階的に販売価格を上げていき、2030年までには5000円~で提供できるようにするコトが私の夢です。すなわち、ランチで5000円のカレーを食べに来てくれる品の良いお客様と一緒に育てていければ、と考えています。 スパイスカレーの高級路線を開拓することは、まだ競争相手がいないので、むしろブルーオーシャン(チャンス)ではないかと、楽天的に考えています。 仮に『ラグジュアリースパイス』という高級路線の文化を立ち上げられたら、2030年代を生きる20代、30代の若い料理人達がスパイスカレー屋でも、レクサスに乗れ、タワマンに住める世界を残してあげられる。 『若い世代にホンモノを提供できる居場所を保管しておく』。 これこそが、私のロマンです」 年に350日以上、店に立ち続け、休まない岡野氏。彼の飽くなき情熱で近い将来、スパイスカレーの常識を破り、ラグジュアリースパイスへと文化を高められるのか?今日も厨房にて、料理人の挑戦は続く。
FRIDAYデジタル