朝ドラ『虎に翼』寅子が受けた高等試験は合格率10%未満! 正式に弁護士になるまでの道のりとは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』第6週「女の一念、岩をも通す」は波乱の週だ。仲間が世の中の不条理によって高等試験を諦めるなか、その無念を背負って主人公・猪爪寅子(演:伊藤沙莉)は遂に高等試験合格を果たす。とはいえ、狭き門をくぐってもすぐに弁護士になれるわけではない。今回はモデルとなった三淵嘉子さんを例に、当時弁護士になるために必要なステップをご紹介する。 ■寅子らが受験した「高等試験」とは? 昭和8年(1933)の弁護士法改正で、それまで「成年以上ノ男子タルコト」と記載されていた条件が「帝国臣民ニシテ成年者タルコト」となり、女性にも弁護士になる道が開かれた。 法律上は女性にも弁護士になる権利が認められたのだが、言うまでもなく実際はそう簡単なことではなかった。大前提として高等試験司法科に合格しなければならないが、これを受験するためには厳しい予備試験に合格するか、予備試験を免除されなければならない。後者は高等学校卒業、大学の予科修了、もしくは文部大臣が指定する専門学校卒業が条件であり、そもそも当時の状況を鑑みれば女性がこの条件をクリアすること自体が難しかったのだ。 作中で寅子らが受験した「高等試験」は、正確には「高等試験司法科」を指し、他に行政科や一時期ではあるが外交科があった。 昭和9年(1934)~昭和15年(1940)の6年間の高等試験司法科の合格者数は、1595人。うち、東京帝国大学が683人で合格者数1位だった。寅子のモデルである三淵嘉子さんが通った明治大学の合格者はこの7年間で63人である。 そもそも昭和5~10年頃において、同世代で高等教育を受けている割合は男子が5%前後、女子が0.6%前後であったことを考えると、受験できるだけで相当優秀であることは言うまでもない。その上高等試験となると、合格率は10%未満だったともいわれている。 三淵さんが合格した年の合格者は合計で242人、その中には前年に筆記試験は通過したものの口述試験で不合格となった田中正子さん(後の中田正子さん)や、3回目の受験で見事合格を果たした久米愛さんもおり、この3人が女性初の高等試験司法科合格者となった。 ■高等試験司法科合格後もすぐに弁護士になれるわけではない 狭き門をどうにか通ったとしても、すぐに弁護士として認められるわけではない。高等試験司法科合格者は、その後「弁護士試補」として配属先で1年半の実務修習を行うことになっていたのだ。なお、裁判官や検察官を目指す司法官試補が給与を支給されたのに対し、弁護士試補は無給だったという。ただし、実際は救済措置として配属先の弁護士会に国から支給される費用の一部を手当てとして受け取れる仕組みがあった。それでも給与というには少なすぎる額だった。 さらに1年半の実務修習を終えて、弁護士試補考試(試験)を受けることも定められていた。この試験に合格してはじめて、正式に弁護士としてのキャリアをスタートさせることができたのである。 <参考> ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版) ■明治大学史資料センター「三淵嘉子(みぶちよしこ)―NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)の主人公のモデルとなった女子部出身の裁判官―(法曹編)」 ■神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部