『百円の恋』『ブギウギ』で本格ブレイク、脚本家・映画監督の足立紳に「マジで春は来た」のか?
渡邊 玲子 3月末に放送を終えたNHKの朝ドラ『ブギウギ』の脚本家であり、映画監督や小説家としても活躍する足立紳。約10年前に脚本を書いた映画『百円の恋』が中国でリメイクされ、今年2月に大ヒットを記録するなど、 “時の人”だ。しかし実は、40代前半までスーパーで品出しのアルバイトをしていた苦労人。小説『春よ来い、マジで来い』には、脚本家を夢見ていた時代の泥臭くも光り輝く青春の軌跡が、虚実ないまぜに綴られている。これまでの苦労を振り返ってもらいながら、ついに来た春に何を思うのか、足立に話を聞いた。
ホラー&コント好きの少年
「女性が串刺しになっているポスターのインパクトにやられまして(笑)」 自身の「映画原体験」について話す足立紳。カルト的ホラーとして語り継がれ、昨年、4Kリマスター無修正完全版がリバイバル上映され話題となった『食人族』(1980/日本公開は83)だ。 「頼むから連れてってくれと父親に懇願しました。自発的にどうしても観たいと思った映画は、これが初めてでしたね。おそらく怖いもの見たさだったと思いますが、それ以降、いまだにホラー映画が好きなので、相当影響は受けている気がします」 だが、足立のフィルモグラフィーにホラー作品はない。思い入れが強いからこそ、「自分ではまだ1本も撮ったことがない」のだそうだ。 「いつか撮りたいという思いはありますよ。でも最近は『ミッドサマー』(19/アリ・アスター監督)のようなリテラシー高めのホラーが多いじゃないですか。僕はそういうのは作れないだろうし、好きなのは80年代に流行ったスプラッター映画のようなB級ホラーなので、今の時代には求められていない気がして。でもやるならお金も時間もしっかりかけて、美術や音響にもこだわりたい。いつか“ちゃんとしたB級ホラー”を作りたいんです!」 ホラーに目覚めた頃の足立少年は、YMOのアルバムに収録されたYMOとスーパーエキセントリックシアター(SET)のコントや「スネークマンショー」が好きという“おませな”小学生でもあった。学芸会ではSETとYMOのコントを“丸パクリ”した劇を披露して爆笑を呼び、観客にウケる快感を知ったという。 “脚本デビュー”は高校生。学園祭で3年生が30分程度のオリジナル演劇を上演するのが恒例だった。自ら名乗り出ると、当時好きだった『蒲田行進曲』(82)の舞台を映画製作からボクシングに置き換えて書き上げた。 小説『春よ来い、マジで来い』にも、主人公がシナリオコンクールに応募するために書いた脚本を巡り、「パクリか、それともオマージュか」と、不安に駆られる場面が登場するが、その“才能”の片鱗(りん)は子どもの頃からあったということらしい。 「あの頃は自分が好きな作品をそのままやりたいというか、それしか術(すべ)を知らなかった。でも結果的にはそれがよかったんでしょうね。初めて脚本を書いた高校時代の学園祭の作品がその年の一等賞を取り、後の自信につながりましたから」