「ずっと競争…幸せになれるのか」韓国の子育て世帯、若者たちで進む“脱ソウル”
■「ビーガンの村」(江原道麟蹄郡新月里)に若者
ワラビの煮物、ナスとサツマイモの天ぷら、大豆ミートの炒め物-。同じく北東部、江原道麟蹄(インジェ)郡の山間集落・新月里(シンウォルリ)にある集会所には、肉を使わないビーガン料理の大皿がずらりと並んでいた。ここは「ビーガン村」と呼ばれている。 ソウルから2カ月間の農村体験に訪れた金柱昊(キムジュホ)さん(33)は「ここで暮らし始めて1週間たったけど、肌がすごくきれいになった。空気と食べ物のおかげかな」と笑った。 金さんはソウルの会社でIT関連の仕事をしており、英語も堪能だ。だが、今の生活に疑問も感じているという。「ずっと競争にさらされてきた。会社でも常に能力を比べられ、弱者は守られずに排除される。そんなシステムの中で幸せになれるのか」 体験後は土地を買って移住予定で、ソウルで仕事をしている夫も合流して酪農を始める準備をしている。見知らぬ土地で農業を始める不安はあるが、「新しい道に踏み出すドキドキする気持ちの方が大きい」と夢を膨らませる。 新月里には2021年、動物愛護活動に取り組む若者やその家族ら8人が、違法な畜産施設から救助した子牛5頭の居場所をつくるためにソウルなどから移り住んできた。 新月里は農村体験などに取り組んでいたが、この若者たちの提案で菜食を取り入れ、「ビーガン村」として交流サイト(SNS)などで発信。環境保護や都市を離れた生活を検討する人たちの関心を集め、昨年は約1600人が体験事業に参加した。前年に比べて300人以上増えたという。村長の全道化(チョンドファ)さん(77)は「参加者には20代から30代の家族が目立つ。都市生活もいいが、自然を楽しむ生活をしたい人が増えているように感じる」と話す。 ビーガン村は本年度、政府が消滅危機にある地方を支援する「地方ブランディング事業」の対象に選ばれた。閉校した小学校跡地を活用した新たな体験施設や、長期滞在住宅などが整備される予定だ。