だから「52歳現役」で今も日本トップ級…五輪8度レジェンドの"最高睡眠"できるフロ・メシ・寝具・エアコン
室温だけでなく、乾燥にも気をつけています。空気が乾くと鼻やのどから体調を崩しやすくなってしまう。遠征先はもちろん、自宅でもわざと洗濯物は寝室に干して、湿度は50%前後にコントロールしています。 寝室の環境を整えて完全消灯。ベッドに入ったら、ものの数秒で眠りに落ちます。寝つきは『ドラえもん』ののび太より早い自信がありますよ(笑)。 朝の寝起きもいいほうです。念のために目覚ましをスマホで二重三重にかけますが、目覚ましより先に僕が起きる。起きた瞬間からオヤジギャグを言えるくらい、朝から元気です。 ■寝る前のお酒は良くないというが…… 目覚めてからいきなりトップスピードで動けるのは、寝る前の入浴でしっかり汗を流して、体の疲れだけでなく脳の疲れも取れているからでしょう。 スキージャンプは考えるスポーツです。朝起きてカーテンを開けた瞬間から、「今日の風はどうかな。強めだからこう飛ぼうか」と考え始めます。ウオーミングアップしている間に何度も頭の中でシミュレーションするし、ジャンプスタート台に上がりながら最後の最後までチェックを繰り返します。飛んだ後も頭はジャンプのことでいっぱい。優勝できればいいのですが、負ければ悔しい気持ちが湧いてきて、今日はどこがよくなかったのかとまた考えこんでしまう。とにかく頭を使いっぱなしで、脳がへとへとになるんです。 脳の疲れを引きずってシーズンを過ごすと、だんだん頭がうまく働かなくなっていきます。我がチームのエース、伊藤有希選手は昨シーズン、ワールドカップ女子で2回優勝しました。ただ、性格が真面目で、ジャンプのことばかり考えてしまう。僕も経験がありますが、それだと最後まで脳がもたなくて、シーズン終盤に失速してしまいました。 シーズンを戦い抜くには、脳のメリハリをつけることが大切です。朝起きてから練習や試合が終わるまでは100%ジャンプについて考えればいいですが、寝る前にはむしろ頭からジャンプのことを追い出して、リラックスした状態でベッドに入る。そうすることで睡眠中に脳がリセットされて、朝からまた全開で動けるのだと思います。 頭から余計なものを追い出すために、ワインを飲むこともあります。寝る前のお酒は良くないという話も聞きますが、あまり難しく考えず、柔らかく生きたいですね。 実は50歳を過ぎてから急にショートスリーパーになりました。以前は7時間ほど寝ていましたが、年齢のせいか、早く目が覚めるんです。最初はアスリートだからもっとたくさん寝たほうがいいのではないかと焦りました。 でも元来、ポジティブに考えるタイプ。早く目覚めたら、「そのぶん早く練習できてラッキー」と思うようになりました。体や脳の疲れも問題ありません。睡眠時間が短くなったなら、深く眠ってカバーすればいい。次のシーズンもまた飛べるように、その工夫を続けていくつもりです。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月5日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 葛西 紀明(かさい・のりあき) スキージャンプ選手・監督 土屋ホーム所属。1972年、北海道生まれ。10歳でスキージャンプを始める。オリンピックには日本人最多の8度出場。23~24年シーズンには4季ぶりに日本代表チームに復帰するなど、今なお選手として活躍し続けている。 ----------
スキージャンプ選手・監督 葛西紀明 構成=村上敬