だって、日本人だから…祖先の「酒に弱い」という突然変異が「日本人全体」に広まった、細胞核の中の「驚愕の生命ドラマ」
「突然変異」から「遺伝的多様性」へ
かつて世界の誰かのDNAに最初に起こったときは、たしかに「突然変異」だっただろう。だが、今は違う。 現在ではすでに、かつて「突然変異」だったこの塩基の置換が、日本人という集団全体に広まっている。こうなると、単に「変異」として片づけられるものではなくなり、むしろ遺伝的な多様性を意味する「多型」と表現すべきものになってしまっているのである。 このような、ある1つの塩基が別の塩基になっている割合が集団の1パーセント以上ある場合、「変異」とは見なさず、「多型」と見なすことになっている。ALDH2のような例は、1つの塩基が人によってはAだったりGだったりするという意味で、1個の塩基の多型、すなわち「一塩基多型(スニップ・SNP:single nucleotide polymorphism)」とよばれる。
「個人差」を生む要因
スニップは、かつてある個体の生殖細胞で突然変異が起こり、ある塩基が別の塩基に置換したものが徐々に集団内に広まって、ある一定以上の個体がその変異をもつにいたったものである。最初は突然変異に起因するわけだから、スニップはALDH2遺伝子以外の場所でも起こりうるということになる。 ヒトゲノムには、ほかにもたくさんのスニップが存在することが知られており、ヒトゲノムの個体間におけるいわゆる「個人差」(ゲノム全体の0.1パーセントを占める)のうち、ほぼ半数がスニップだといわれている。 たとえば、耳垢が湿っているか乾いているかにも、ある遺伝子に存在するスニップが関わっているし、心筋梗塞などのいわゆる「生活習慣病」の原因遺伝子にも、多くのスニップが関わっていることがわかってきている。 ヒトゲノムは、「ホモ・サピエンス」という種における全遺伝情報である。したがって、全体としては「ホモ・サピエンスのゲノム」であることが保たれているが、DNAの塩基配列という細かい部分を見ていくと、ところどころで変化を起こしていて、それが「個人差」というものを生んでいる。 そしてその「個人差」とは、何十万年と続くホモ・サピエンスの歴史のなかで、突然変異がゆっくりと、着実に、そして多くの場合ランダムに起こってきたその結果である、ということができる。 一方において、ゲノムに生じる変化はスニップだけに限らない。先述のとおり、スニップというのはヒトゲノムにおける個人差のうち「半分」だけだ。では、「残りの半分」はどうなっているのか。 その残りの半分の部分には、とらえ方によっては、「これこそDNAの本質なんちゃうか」と思えてしまうほど、興味深い変化が生じている。その変化とは、塩基配列の「繰り返しの多型」とよばれるものである。
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