「男らしさ」を求めるアメリカ。トランプ出演“ポッドキャスト”の壮絶な影響力
「問題は『君たち以外の人たち』のほうだ」
このたびの大統領選では、若い男性(18歳~29歳)が、4年前の選挙に比べて大幅に右傾化し(調査によると約30%も右傾)、トランプ支持に回ったことが注目され、その原因についてさまざまな角度から論じられている。 さまざまな分析の中で、私自身がもっとも説得力を感じたのが「トランプは彼自身が体現する古臭いマッチョさで、Bro Cultureを心地よく思う若い男性たちの心を勝ち取った」という考え方だ。 女性が高学歴化し(アメリカでは80年代から女性の高学歴化が進み、今では学士、修士、博士すべての学位取得者の数で女性の方が多くなっている)、意見を強く主張するようになった。 またDEIの視点から現状の修正が求められることになり、これまでの「古き良きマッチョ文化」は隅に追いやられ、「有害な男性性」などと非難されるようになってきた。 かつて男性、特に白人男性であれば自動的に得られた優位性は損なわれ、発言一つにしてもいろいろと気を使わなくてはならず、息苦しい。労働も、肉体労働中心からサービス業中心になり、経済活動においても男性の優位性は以前ほど保証されたものではなくなってしまった。 そんな状況で戸惑い、居心地の悪さを感じている若い男性たちに対して、トランプはこう言ってくれたのではないか? 「いや、君たちが問題なんじゃない。問題は『君たち以外の人たち』のほうだ。俺らのBro Culture の何が悪い?」 ここで言う「君たち以外の人たち」は、女性、移民、LGBTQはじめ、社会をリベラルな方向に変えようとする(今の言葉でいうと「woke」な)人々のことだ。 なお今回の選挙戦で、反移民やヒスパニックを蔑視する発言などトランプ陣営から次々と発せられたにも関わらず、ヒスパニック系の男性たちが数多くトランプ支持に回ったことが驚きをもって受け止められていた。 ただ選挙後にさまざまな分析を読んでみて、共和党が過去4年間、ヒスパニックの男性たちをターゲットに、やはり「Bro Culture」を前面に出すことで彼らを取り込もうとしていたことを知り、この戦略が成功したのだなと納得した。
男性至上主義コミュニティの影響力
男性たちを取り込むためのトランプ陣営の作戦の中で、非常に重要だったのが「Manosphere(マノスフィア)」の存在だった。Manosphereとは、男性インフルエンサーたちによるウェブサイトなどオンライン上のコミュニティで、コアファンは若い男性たちだ。 この空間においては、リベラルよりも保守のほうが威力をもっており、インフルエンサーたちの価値観も、しばしば男性至上主義的だとされる。 今回の選挙の後には、この空間で語られていることが投票行動にいかに大きな影響力を及ぼしたかがさまざまな分析で明らかになってきた。
渡邊裕子