草笛光子、倍賞千恵子、宮本信子に加賀まりこ...大女優たちの実力に裏打ちされた妙技に触れる作品4選
芸歴を重ね、幅広い演技力で高く評価されている大女優たち。視線、指さき、佇まいだけで場面を物語る姿は、作品に奥行きと味わいをもたらすスパイスになる。新人や若手人気俳優の主演作ばかりが並ぶ映画やドラマの舞台において、脇を固める上でなくてはならない存在といえるだろう。それは入れ替わりの激しい芸能界で生き残り続けてきた確かな実力があってこそ。そんな大女優たちをメインキャストに据えた異彩を放つ作品にフォーカスを当てた特集「美しく歳を重ねる―大女優の輝き―」が、敬老の日である9月16日(月)に日本映画チャンネルにて放送される。 【写真を見る】「老後の資金がありません!」 メディアや政治家によって世間を騒がせた「老後2000万円問題」は記憶に新しい人も多いだろう。映画「老後の資金がありません!」は、誰もが関係してくる老後の資金という重い題材をコミカルに描いたヒット作だ。貯蓄をしたくても家計が火の車に直面した主婦・篤子(天海祐希)が現実にあたふたするわけだが、そんなことはお構いなしに浪費する姑・芳乃(草笛光子)の存在がそこに拍車をかける。 しかも高齢とは思えないほど芳乃のフットワークがとにかく軽い。あれこれ問題を持ち込む疫病神のような存在として篤子を振り回すのだが、その軽快さが作品の心地よいテンポとコミカルさにも繋がり、どこか憎めない人物像を作り上げている。少しでも間違えれば嫌われ役に転じる役柄を絶妙な立ち回りで回避している草笛の演技は、コミカルに描く上で作品全体を下支えしているといっても過言ではないだろう。 反対にシリアスな展開が続く「PLAN 75」は、見る側にあれこれと考えさせる重厚な映画となっている。75歳以上の高齢者が自ら生死を選択できる制度"プラン 75"が施行された社会で、主演の倍賞千恵子は78歳で一人暮らしのミチを演じている。 特筆すべきは、普通に生活を送っているという姿があまりにもリアルだということだ。一人でテレビを見ながらご飯を食べている姿や友人たちとカラオケを楽しむ様子は、どこにでもいる普通の高齢者としか思えない。それがもし自分だったら、知っている他の誰かだったらと、自分の人生に当てはめながら見ていることに後から気付くことになる。 作品全体を通して言えることだが、登場人物の台詞は多くない。ミチが徐々に死を選択する過程を表情のみで形にする演技力はなんとも言い難いものがある。ただそこにいるだけで思っていることが伝わるのは、倍賞という女優だからこそ為せる業なのではないだろうか。 高校生のうらら(芦田愛菜)と老婦人の雪(宮本信子)が、BL漫画をきっかけに友情を育む「メタモルフォーゼの縁側」。この作品を見れば、同じ"好きな事"で繋がれば年の差などささいなことだと誰もが感じるだろう。互いに影響を受けながら満面の笑みで語り合う姿に心が温まるはずだ。 作品の中で雪がしばしば老婦人に見えない時がある。BLという新しい世界に触れてウキウキしている感じやうららに物語の感動を伝える姿は、まるでときめく少女のよう。その時の雪はうららと同じ高校生に見えてしまうのだ。好きなものを語っている時ほど人間がキラキラしている瞬間はないというが、目を輝かせながら話す宮本の演技に魅入られずにはいられない。 占い業を営む珠子(加賀まりこ)と自閉症の息子"忠さん"(塚地武雅)の二人暮らしが描かれている「梅切らぬバカ」は、とにかく親子のやりとりにほっこりする作品。この物語は決して大きな事件が起きるわけでもなければ、何かが解決するわけでもないのだが、だからこそ見ていてリアルな話だと感じさせてくれる。 途中、忠さんの行動で地域住民からの冷たい視線にさらされたりもするのだが、葛藤を抱えつつも表には出さない珠子が忠さんを大事にしている姿を、加賀が絶妙なあんばいで演じている。自閉症を抱える子どもとの生活は大変なことが待っているように感じるが、決して苦渋の生活を送っているわけではない。そこには普通の家庭と変わらない姿が自然と描かれていて、ごく普通の親子の関係を感じさせてくれる。そう思わせる加賀の演技は、やはり誰もが認めざるをえない女優の為せる業なのだろう。 文=永田正雄
HOMINIS