“日本共産党”の「除名処分」に対する民事訴訟が提起 争点は「結社の自由」と「言論の自由」の対立
3月7日、日本共産党の党首に立候補するに先だって書籍を出版したところ、「分派活動」にあたるとして除名処分を受けた松竹信幸氏が、同党に対する地位確認請求および名誉毀損への損害賠償請求を行う民事訴訟を提起した。
訴訟の経緯と請求内容
松竹氏は学生時代に日本共産党に加入、以降の約50年間、党員として活動してきた。 2023年1月、党首への立候補を決意した松竹氏は『シン・日本共産党宣言 ヒラ党員が党首公選を求め立候補する理由』(文藝春秋)を出版。 2月6日、日本共産党は、松竹氏の書籍に記載されている主張は同党の規約に書かれた「党内に派閥・分派は作らない」(3条4項)、「党の統一と団結に努力し、党に敵対する行為は行わない)(5条2項)、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(5条5項)などに違反しており「分派活動等」にあたるとして、松竹氏を除名処分とした。 今回の訴訟は、除名処分は違法・無効であるとして、松竹氏の日本共産党員としての地位の確認を求めるもの。ならびに、同党が発行する機関誌「しんぶん赤旗」に松竹氏を批判する記事が何度も掲載されたことは名誉毀損にあたるとして、損害賠償を請求している。 請求額は、除名処分に関する慰謝料と弁護士費用が合わせて110万円、名誉毀損に関する慰謝料と弁護費用が合わせて440万円。
「共産党袴田事件」の判例変更をねらう
提起後の記者会見では、原告側の訴訟代理人の平裕介弁護士が、「共産党袴田事件」の判例変更を求めることも訴訟の目的であると語った。 共産党袴田事件は、日本共産党の幹部であったが除名された袴田里見氏が、除名後も党が所有していた家屋に居住し続けていたことを受けて、党が袴田氏に家屋の明け渡しを求めた民事訴訟。 1988年12月、最高裁小法廷は「政党が党員に対して行った処分は、一般市民法秩序(=一般社会、世間)と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、司法審査に及ばない」「例外として一般市民法秩序と直接の関係を有する場合であっても、政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情がないなら、適切な手続きに則って処分の判断がされたか否かによって決すべき」と判断した。 上記の判断は、原則として国が結社に干渉することは避けるべきであり、結社の内部で行われた判断は政党内の自律的な解決に委ねるべきとする、憲法21条に定められた「結社の自由」を尊重する考えに基づくもの。 また、政党などの団体は、日本や世間という「一般社会」とは異なる「部分社会」としての独自の法規範や規律とそれに基づく構成員の処分権限を持っており、団体内部の規律問題については司法審査が及ばないとする、「部分社会の法理」も関わっている。 しかし、2022年11月、最高裁大法廷は「部分社会の法理」を認めた1960年の判例を変更した。また、1970年の判例(八幡製鉄最大判)では、「憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えていない」と判断された。 原告側が提出した訴状では、小法廷限りの判断である共産党袴田事件の判例には先例的価値はないとして、判例変更を求めている。 また、今回の松竹氏に対する除名処分は「一般市民法秩序と直接の関係を有する」ものであり、除名処分を決定する手続きも不適切であったことから、判例を変更しないとしても司法審査の対象になる、とも原告側は主張している。