小さな成功体験、会社への信頼…新人が職場に定着するまでの5つの心理的ステップとは。すべての中間管理職が知っておくべき新人スタッフのメンタル段階
マズローの欲求5段階説と新人の心理ステップ
下図の三角形を見てください。これは、「マズローの欲求5段階説」と呼ばれるもので、人間の欲求が階層的に整理されるとする心理学の理論です。生理的欲求、安全の欲求、所属と愛の欲求、承認欲求、自己実現欲求の順に、基本的な欲求が満たされると、より高次の欲求が生まれるとされます。 つまり、食事や睡眠の欲求が満たされると安全や安定を求め、それも満たされるとコミュニティに所属したくなり……と、だんだん高次の欲求が湧いてくるということです。 これに似た心理ステップが、スタッフの離職に大きく影響しています。それをまとめたのが、次の図です。 1 生活の維持、会社への信頼 上記心理ステップの下段にある「生活の維持、会社への信頼」とは、危険や今後の見通しといった土台となる部分です。 「ちゃんと給料支払われるのかな……」「書類の扱いがルーズだけど大丈夫かな……」「採用面接で言っていたことと全然違うんだけど……」などの不安があると、この一番下のステップが満たされていないことになり、離職につながってしまいます。 2 緊張の弛緩(身の安全) 次のステップは、「緊張の弛緩(身の安全)」です。つまり、リラックスして業務に集中できる状態のことを指します。自分用のユニフォームや必要な備品がきちんと用意されているか、名前を覚えてもらえているかなど、受け入れ態勢を整えることで、このステップを越えやすくすることが可能です。
短期間での戦力化が大切
3 チームに馴染む、仕事を覚える 余計な緊張をしなくなってきたら、次は「チームに馴染む、仕事を覚える」ステップです。仕事のスキルがなかなか上がらないと、「チームに迷惑をかけている」という引け目を感じ、他のメンバーとの関係がギクシャクし始めます。それを避けるためにも、短期間で戦力化することが大切です。それが結果的に離職防止につながります。 4 小さな成功体験、周囲からの承認 チームに馴染んで仕事を覚えてきたら、小さな成功体験を積み重ねることが大切になります。また、業務を通して仲間から認められ、お客様やクライアントから褒めてもらう機会が増えることで、より仕事へのコミットメントが高まります。 5 自己肯定(自分だからできる、この場所ならできる) 一番上のステップは「自己肯定」です。自分で自分を承認し、「ここで働けば成長できる」「仲間もお客様(クライアント)も喜んでくれる」と思えるようになる。この状態のスタッフが多くなるほど、業務はスムーズに回り、成績も向上。スタッフが意欲的に働き、長く定着するようになります。 この5段階のステップを、一段一段登らせることが大切です。 スタッフがすぐ辞めてしまうなら、なぜスタッフが辞めているのか、どのステップで辞めているのかを観察してみましょう。職場に馴染むことができなかったのか、それとも、馴染みはしたものの小さな成功体験や周囲からの承認を得ることができなかったのか。 それによって、教育や指導、声のかけ方が自ずと変わってきます。 早期離職を防ぐためには、入社からできるだけ短い日数で4段目(小さな成功体験、周囲からの承認)まで登らせましょう。このステップを誰もが確実に登れる環境を整えておくことが大切です。 図/書籍『中間管理職無理ゲー完全攻略法』より 写真/shutterstock
---------- 中谷一郎(なかたに いちろう) 大学卒業後、ベンチャー・リンク社を経て2010年にトリノ・ガーデンを設立。サービス業を中心に、建設、小売、メーカーなど幅広い業界における大企業の収益・生産性改善を、「オペレーション分析」を通じて実現してきた。その手法は一般的な戦略コンサルタントのそれと異なり、徹底的に現場の様子を「可視化し計測し記録する」こと。近著に『オペレーション科学』(柴田書店)がある。 ----------
中谷一郎