元乃木坂46・伊藤万理華の魅力爆発…想像を痛快に裏切る展開とは? 映画『チャチャ』徹底考察&評価
天然不思議ちゃん風キャラクターへのメタ視点
そんなチャチャにただ1人、直接文句を言う人物がいる。中川大志演じる樂だ。 歩道と車道の境目を綱渡りのように歩いたり、絵を描くのに集中すると絵の具を食べちゃったりするチャチャの不思議行動に対して、「嫌われるよ」や「変人ぶってるというか、天才ぶってる感じがしてちょっとイラつく」となんともストレートに言ってのける。 特に、屋上で空き瓶を太陽にかざして覗き込むチャチャに対して樂が「なんで飲み終わったのに持ってるの? 構ってほしいみたいに見える」と言うシーンでは思わず吹き出してしまった。 例え、主人公が“お洒落げ”なことをやっていても、さらりと流すのがこの手の映画の登場人物としての当然の作法だろうに樂は容赦なく刺す。そんな攻略の難しい樂という人物にチャチャは惹かれていき、樂もチャチャに心を許し始め、従来の樂なら嫌うであろう“しゃぼん玉をタバコの煙で膨らませる”というお洒落行為にまで手を染める。
恋の盲目性と一面的なイメージの不確かさ
『チャチャ』は、恋の盲目性と一面的なイメージの不確かさを描いた映画だ。映画はチャチャの同僚・凛(藤間爽子)の、ある勝手な妄想から始まる。社長(藤井隆)に密かに思いを寄せる凛は、社長のお気に入りではあるチャチャと社長の不倫関係を疑ってチャチャを観察し始める。 “好き”という感情がバイアスをかけて、よからぬ想像を掻き立てさせるのが恋であり、それは樂に恋をしているチャチャも同じだ。樂の家に転がり込んだはいいが、肝心の“樂の本当の顔”にはしばらく気づかず、それゆえに後半の怒涛の展開が訪れる。 恋をするあまり相手のことしか見えなくなり、正しい判断ができなくなる。膨らんだ理想や悪い想像は見える世界を歪ませる。伊藤万理華本人が歌う、本作の最高主題歌「おはようの唄」の2番の歌い出しの「見たいように世界見ちゃったな 見方変えてみたら涙出た」という歌詞がまさにそれを表現している。 恋愛バイアスは見える世界を歪める。それゆえに恋をする人間は判断力が鈍り、とんでもない行動に出る。劇中のチャチャの、凛の、そして樂のとんでもない行動の数々も、恋の盲目性を考慮すれば納得できないこともない。 そして、恋に盲目で一面的なイメージに囚われるのは、伊藤万理華に恋をする映画ファンも同じだ。『チャチャ』という可愛いらしい語感、宝石の散らばった床に伊藤万理華が三角座りをするほのぼのとしたメインビジュアル、やけにカラフルな画面。 そんな一面的な情報で観客は、ミニシアター系でアートっぽくて「大きな事件が起こるわけではないが見てられる映画」を想像して、ともすれば「伊藤万理華さんが魅力的に映っていればそれでいい」くらいの気持ちで映画館へ足を運ぶ。 しかし、この『チャチャ』はそれらの想像を良い意味で痛快に裏切り、あらゆるミスリードを経て、見かけによらずバイオレンスな方向へ進んでいく。6年ぶり2度目の、最高にクールな“伊藤まりかっと。”(※1)を、ぜひ劇場で目撃していただきたい。 1※「伊藤まりかっと。」:2017年3月発売の乃木坂46のシングル「インフルエンサー」の特典映像として収録されている、伊藤万理華の個人PV。 【著者プロフィール:前田知礼】 前田知礼(まえだとものり)。1998年広島県生まれ。2021年に日本大学芸術学部放送学科を卒業。制作会社での助監督を経て書いたnote「『古畑任三郎vs霜降り明星』の脚本を全部書く」がきっかけで放送作家に。現在はダウ90000、マリマリマリーの構成スタッフとして活動。ドラマ「僕たちの校内放送」(フジテレビ)、「スチブラハウス」、「シカク」(『新しい怖い』より)」(CS日テレ)の「本日も絶体絶命。」の脚本や、「推しといつまでも」(MBS)の構成を担当。趣味として、Instagramのストーリーズ機能で映画の感想をまとめている。