老化したら、どうなる? 「老いパーク」体験で得た想像力
「老いパーク」。突如SNSのタイムラインに流れてきたそのワードは、筆者に強い衝撃を与えた。 よく見ればそれは、国立の科学館「日本科学未来館」の新たな常設展名であるという。 ちょうど、好きな映画監督らによる老いがテーマの映画を立て続けに観たタイミング。スクリーンに映し出された自分にも確実に訪れるだろう未来はあまりにホラーで、将来への不安を抱くには十分だった。つい、「老いパーク」をジョージ・A・ロメロの恐怖の老人映画「アミューズメント・パーク」(1975)に重ねてしまった。 内閣府の「高齢社会白書」によれば、日本の高齢化率は29.0%(2022年10月時点)。2037年には、国民の3人に1人が65歳以上になるとされている。これは、世界で最も高い高齢化率*だ。 誰しもに訪れる遠くない未来。“老い”のために、社会に必要なソリューションはどのようなものなのだろうか。恐怖に怯えるのではなく、未来を明るいものにするために行動したい。そのヒントを得るために「老いパーク」を訪れることにした。 *「令和5年版高齢社会白書」より ■科学館で自分の未来を考える 2023年11月、日本科学未来館は「ロボット」「地球環境」「老い」をテーマにした4つの常設展示を公開した。これらは、2030年に向けた同館の新ビジョン「あなたとともに『未来』をつくるプラットフォーム」に紐づいている。 このビジョンを先導するのは、2021年、宇宙飛行士の毛利衛さんに代わり第2代館長に就任した浅川智恵子さんだ。視覚障害がある当事者であり、アクセシビリティ技術研究の第一人者の浅川館長が目指すのは、障害や年齢、国籍といった違いに左右されず、多様な人が楽しみ、交流できるプラットフォームとしての科学館。 4つの常設展示は、そんな誰もが未来の社会課題を「自分ごと」として捉えるきっかけを提供する目的で制作された。
”老い”を体験できる「老いパーク」
中でも、“老い”という特に自分ごと化しやすい社会課題を取り上げる「老いパーク」に注目したい。約230平方メートルの開放的なスペースに設置された6つの展示で体験できるのは、目、耳、運動器、脳の老化現象だ。 公園をイメージしたオープンで明るいスペースは、老いのネガティブなイメージを払拭する。 老いパークの企画・調査を担当した、科学コミュニケーター園山由希江さんは、企画経緯を次のように話す。 「一般的に科学館が取り上げる未来というと、AIや宇宙開発などスケールの大きな科学技術をイメージすると思います。でも30年後や50年後といった未来では、私たち個人の身体も変化している。その過程を科学館として取り上げることは、重要な未来の“自分ごと化”です。 さまざまな議論を経て、新たなビジョンと共に改めて未来を考え、一人ひとりの足元に必ずある未来として、老いを取り上げることが決まりました」 入り口正面には、「老いを体験しよう!」とマップが設置されている。これほどPOPな老いの提案を未だかつて見たことがない。 科学館における老いをテーマとした常設展示は、日本ではほとんど例がないと言っていい。展示を設計するにあたり意識したのは、老いを悲観・敬遠するのではなく、楽しみながら能動的に学べるようにすることだ。 「科学の視点で言えば、老いは経年変化です。良いものだとか悪いものだとか決めつけるものではありません。老いを考える場所の名称として、老いパークというストレートなネーミングにしたのは、固定概念に捉われず、老いについてオープンに考える場所にしたかったからです」 カラフルで多幸感があり、どれから体験しようかと迷ってしまうほどワクワクする。ここはまるでテーマパークだ。 老化現象を擬似体験する、と文字だけで見るとふと恐ろしく感じるかもしれない。しかし実際に体験してみると、見て聞いて触って、楽しい感情とともに体験することができ、訪れる前に抱いていた老いへの恐怖を忘れていた。取材日には小学生が団体で訪れていたが、彼らと並んで老いを体験するのはとても新鮮なひとときだった。 「サトウの達人」は、受付窓口で「サトウさん」と呼ばれたときだけボタンを押すゲーム。 近場のスーパーまで歩いていくシミュレーターで、運動器の老化を疑似体験する「スーパーへGO!」も盛り上がっていた。足首に重りをつけた状態でシルバーカーを押していくが、なかなか思うように進めない。