平成の大合併、名称巡るひずみが表層化。兵庫県篠山市の改名騒動
いったんは篠山市に決まった新市名を、そんな簡単に市名変更できるのでしょうか? 「総務省は全国の自治体を所管する官庁ですが、新市名について口を出す権限はありません。地方公共団体の名称変更については、地方自治法第3条に定められています。2000年まで市町村の名称変更は認可制になっていましたが、地方分権一括法が2000年に施行されて以降は協議制になっています。篠山市が市名を変更する場合は、兵庫県と協議する必要があります」と話すのは、総務省自治行政局市町村課の担当者です。 新市名の検討を表明している篠山市では、市名変更を巡って住民投票を実施するよう求める声も市民から挙がっています。しかし、住民投票は必須というわけではありません。そのため、篠山市長も住民投票の実施には消極的です。なぜなら、住民投票には約2600万円の費用がかかることや市民の対立が深まる懸念があるからです。 「市長が独断で市名を変更することはできませんが、議会の承認を得ることで県との協議の場を設けることができます。仮に県が市名変更に反対しても、協議制という原則上は篠山市が“丹波篠山市”に変更することは可能です。また、市名変更に際して周辺自治体、例えば丹波市に申し入れをする義務はありません」(同) 仮に篠山市が“丹波篠山市”に市名を改称した場合、交通標識を書き換えたり、コンピューターシステムを変更するなどの事務が生じます。しかし、篠山市が負担するのは、あくまでも自分の市における変更費用だけです。「ほかの都道府県や市町村で生じた費用を、篠山市が負担する必要はありません」(同) 篠山市の“丹波篠山市”への市名変更問題は、兵庫県の一自治体の話に終始しません。全国には同じ名前の町村が複数ありますが、市の場合は同名を避ける決まりがあるからです。平成の市町村合併が進められるまで、同じ市名は東京都府中市と広島県府中市の一例だけでした。これは両方の府中市が同じ日に市制を施行したことが理由で、どちらが先か後かが判断できなかったのです。 平成の市町村合併では、沖縄県平良市と宮古郡4町村が合併して“宮古市”になろうとしました。しかし、すでに岩手県宮古市があったために“沖縄県宮古市”は頓挫。宮古島市として市制を施行しています。同じく、愛知県三好町は2002年に人口が5万人を突破。単独で三好市になろうとしましたが、すでに徳島県三好市がありました。そうした事情から、ひらがなの「みよし市」に落ち着いています。 平成の市町村合併では、北海道伊達市と同名の福島県伊達市が誕生したのが唯一の例です。“丹波篠山市”の市名改称が実現すると、ほかの市でも同様の市名変更が起きる可能性があります。 小川裕夫=フリーランスライター