読書の秋、50代女性に読んで欲しい「おすすめの7冊」
読書の秋に50代女性におすすめしたい書籍を厳選しました。 【写真】50代女性に読んでほしいおすすめ本
時代のうねりにのみ込まれない強さを磨く100年史
『百年の子』 古内一絵 小学館 ¥1,980 子供のころ手にした『小学一年生』などの学年別学習雑誌。その100年におよぶ歴史を調べ上げ、かかわった人々の情熱や後悔を織り込みながら、老舗出版社を舞台に物語が紡がれていく。主人公は、令和を生きる編集者の明日花と、その祖母で、戦争中に学年誌の編集部で働いていた過去を孫に語れぬまま認知症を患ったスエ。戦中戦後で激変する誌面に衝撃を受けるが、すべて史実だ。苦難の時代にしなやかさを失わず、懸命に働き、友情を育んでいく女性たちの姿も胸に刻みたい。
1枚のレシートから人生が見えてくる
『レシート探訪』 藤沢あかり 技術評論社 ¥1,760 「あなたのレシートを見せてください」と、年齢も職業も異なる25人の家を訪問。買った品々にまつわる話を聞くうち、それぞれの人となりや暮らしぶり、将来の夢までがくっきりと浮かび上がってきて……。ユニークな発想から生まれた、味わい深いインタビュー&エッセー集。
『コモンの「自治」論』 斎藤幸平 松本卓也ほか 集英社 ¥1,870 お堅いタイトルに、何それ?と思った人も、読めば、生活に欠かせないコモン(公園や水道などの共有材)が奪われつつあることを痛感。同時に、私たち自身の手で社会を変えられるんだと希望がわいてくる。気鋭の学者ら7人による共著は、明るい未来づくりのヒントが満載!
誘拐事件を通して描く無償の愛
『存在のすべてを』 塩田武士 朝日新聞出版 ¥2,090 4歳で誘拐された男児が7歳のとき戻ってきた。前より健康で幸せになって……。未解決に終わった奇妙な事件から30年後、被害児童の今を知った新聞記者が再び調査を始める。やがて明らかになる「空白の3年間」に、涙。社会派ミステリーとしても、愛の物語としても極上だ。
決して他人事(ひとごと)ではない!? 空き家をめぐる家族の物語
日本は今、空き家だらけだ。’18年の時点で約850万戸。空き家率は13.6%で7軒に1軒。’25年には団塊世代が75歳を迎え、’33年には3軒に1軒が空き家になるという試算もある。実家のようすを思うにつけ、他人事ではないという人も多いのでは? 重松清『カモナマイハウス』は誰にとっても切実な現代の空き家問題を、一組の夫婦とその息子の視点から描いた長編小説だ。主人公の水原孝夫は定年を間近に控えた58歳。不動産会社の都市計画部でニュータウンや大型マンションの再開発に携わってきたが、現在は出向先の会社で空き家のメンテナンスの仕事をしている。 結婚33年になる妻の美沙は数年前、両親の介護で長年勤めてきた高校の国語教師を早期退職した。その両親を相次いで看取(みと)り、ようやく介護から解放されたというのに、その途端、介護ロスに陥り、あげく「マダム・みちる」なる怪しげな老婦人が自宅で開く「お茶会」にハマっている。 そんな水原家に息子の研造が足を骨折したのでしばらく世話になりたいといって戻ってきた。研造は31歳。10年前に特撮ヒーローもの(「ガイア遊撃隊ネイチャレンジャー」)に出演したという経歴の持ち主だが、ブレイクしそこね、現在はバイトをしながら、自ら立ち上げた小さなミュージカル劇団で役者稼業を続けている。 まったくもう、というしかない。かつては新築物件を扱い、現在は老朽化した家を保守する夫。子育ても介護生活も卒業したのに、生きがいを失った妻。そして30歳を過ぎても足もとが定まらない息子。下り坂に入った家族の末路を予感させる不穏な設定である。 加えてそこに、美沙の実家の空き家問題が勃発! 兄の健太郎が、妹の意向も聞かず勝手に実家の処分方法を決めてしまったのだ。兄が委託したリノベーション会社が提案してきたのは「もがりの家」。火葬までの待ち時間に利用する遺体の安置所だった。 遺体の安置所ですからね。イエスといえます? 突然のことに気持ちの整理がつかない美沙に、兄は容赦なく迫る。〈リフォームして『もがりの家』にするか、誰かに売るか、どっちがいい〉。 家には家族の歴史がつまっている。だからこそ、きっぱり売ったり壊したりといった決断を、多くの人はなかなかできない。 家を殺すも生かすも、残された人しだい。〈空き家は、廃屋じゃないんだからな〉と孝夫はいう。空き家は〈一時停止の状態なんだ。ポーズだな。画面は暗くならずに、ただ停まってるだけなんだ〉。 重松清らしいハートウォーミングな結末が用意されてはいるものの、そこにいたるまでの道のりは平坦ではない。ではわが家は、と考えずにいられなくなるだろう。 『カモナマイハウス』 重松 清 中央公論新社 ¥1,980 アラ還の夫妻に突然のしかかった、妻の実家の空き家問題。その行方をめぐる一家の右往左往を中心に、空き家をめぐる諸問題があぶり出される。ビジネスチャンスありと付け込んでくるリノベーション会社のやり手社長、レンタルの瀟洒(しょうしゅ)な洋館を自宅と偽ってお茶会を開くマダムなど、一家のまわりにいるのは怪しげな人ばかり。果たして妻は実家にどう決着をつけるのか。アラフィー世代にピッタリなテーマの『婦人公論』の連載小説。