ADAM Audioのサウンドが最小サイズで約4万円。ちょっとずるいぞ「D3V」
デスクトップオーディオは、音楽に動画にゲーム、時には、コンテンツを作るシーンで活躍する。PCの内蔵スピーカーでは音質が心許ないし、小型なPCスピーカーでは低音が物足りない。かといって、サブウーファーは置く場所が……。そんなこんなで、満足のいくスピーカーに出会えていない方も多いのではないだろうか。 【画像】ADAM Audio「D3V」 そんなマルチユースなデスクトップオーディオに、ぴったりな小型モニタースピーカーが登場した。ADAM Audioの「D3V」だ。10月の発表から早くも音楽制作者の界隈で話題になり、その使い勝手や音質に注目が集まっている。 さっそく筆者もD3Vを試用してみたところ、予想以上にエンタメ用途との親和性が高いことが分かった。本稿では遊び用途をメインに、少し制作用途にも触ってみた感触をレポートしていこう。 ■ 「ADAM Audioのサウンドを最小サイズで」 ADAM Audioといえば、スピーカー自身で音響補正を行なうモニタースピーカー「Aシリーズ」が印象深い。誰もが理想的なルームアコースティックを整えることが困難な中、自分の部屋で鳴っている音をマイクで測定すれば、本来あるべき音へ補正してくれるのは魅力的だ。 ADAM Audioでは、Sound ID Referenceの技術を応用して、個別の環境に適した音響補正を行なうAシリーズの他にも、切り替えスイッチで補正を行なえる機種がいくつか存在する。D3Vは、最も小型なADAMスピーカーでありながら、DSP音響補正を備えたモデルなのだ。 D3Vは、「25年にわたるスピーカー開発で培った技術を結集した、ADAM Audioのサウンドを最小サイズで実現するモニタースピーカー」と銘打って登場した新シリーズ。ドイツのメーカーであるADAM Audioは、独自の「ARTリボンツイーター」が一目で分かるようなトレードマークになっているから、小型でもADAMらしさは健在だ。 ドイツの物理学者オスカー・ハイル氏が発明したAir Motion Transformer(AMT)原理を基に、ADAM Audioは「ARTリボンツイーター」を開発した。既にX-ARTおよびS-ARTとして同社のスピーカーに導入されている目玉技術を、D3VではD-ARTとして搭載している。Dはデスクトップ、ARTはAccelerating Ribbon Technologyの頭文字を取っている。 ARTツイーターの振動板は、プリーツ状に折りたたまれており、そこに音楽信号が加わることで、アコーディオンのように収縮を繰り返す。従来の技術と比べ約4倍の早さで空気を動かすことで、従来型のピストン運動に伴う問題を解消しているという。具体的には、優れたトランジェント、分割振動を抑えることによるダイナミクス制限の解消などだ。一般のリボンツイーターに期待される、高音域における広い拡散性も備えている。 ではD3Vの基本スペックを見ていこう。 10月25日に発売されたD3Vは、オープン価格で、店頭予想はペア39,091円(税別)。カラーはブラックとホワイトの2色。 高域用は、ADAM AudioのAMT技術を採用した1.5インチD-ARTツイーター。低域用は、3.5インチのアルミ製ウーファーに加え、45Hzまでの低域再生を可能にするため、両側面にパッシブラジエーターを搭載。特殊なステンレス鋼と安定化されたロングストロークラバーエッジを採用したパッシブラジエーターにより、重厚で伸びやかな低音を提供するという。 総合出力は240Wピーク(200W RMS/ペア)、低域出力は80W(70W RMS/1本あたり)、高域出力は40W(30W RMS/1本あたり)。クロスオーバー周波数は4kHz。 入力は、アナログがTRSフォンまたはTSフォン、デジタルはUSB-Cをリアパネルに搭載。USB-C経由の接続は、アナログ→デジタル変換のプロセスを省き、直接DSPへ信号を送ることで、高音質を実現するという。 DSPによる音響補正スイッチは背面に備える。スピーカー配置は、スタンド設置/壁際/コーナー。デスクサイズは、机無し/小サイズ/大サイズ。吸音環境は、対策万全/中程度の対策/未対策と、それぞれ環境に合わせて設定できる。内蔵のADコンバーターは48kHz/24bitの精度で動作し、TRS入力から受けたアナログ信号をデジタル信号に変換してDSPで処理している。 設置用のアクセサリーは、ポン置き用にゴム脚が3つずつ計6つ同梱。デスクトップ用のスタンドも同梱されているので、見下ろすようなシチュエーションでも仰角を付けて設置可能だ。底部にはネジ穴(3/8インチ)があり、汎用のマイクスタンドにも取り付けできる。 アンプは片側のスピーカーにのみ内蔵。電源もアンプ側にACアダプター(24V/2.5A)で供給する。左右のスピーカーは、スピーカーケーブルではなく、専用ケーブルで接続する。ピンが4本なので、低域用と高域用で各アンプからそのまま送っているのだろう。デフォルトはアンプ側が左スピーカーだが、設定で左右のチャンネルを反転できる。接続ケーブルなどの都合で入力や電源を右にまとめたいときに便利だ。 表側は、3.5mmヘッドフォンジャックとマルチファンクションボリュームノブ、ステータスインジケーターがある。ボリュームノブは、1回押すとミュート。2回押すと入力切替え(アナログ/USB-C)。3回押せば、L/Rのチャンネルを入れ替えられる。2秒間長押しでスタンバイモードへ移行だ。 ステータスインジケーターは、緑がアナログ入力(TRS/TSフォン)、水色がUSB-Cだ。他にもオレンジの脈動点灯でミュート状態など、様々なステータスを教えてくれる。外形寸法は115×150×200mm(幅×奥行き×高さ)で、スタンド使用時は高さ240mmとなる。重量は1.85kg(アンプ側)+1.73kg。 D3Vは、モニタースピーカーとしては小型で接続も簡単だ。リュックに入れるのは大変そうだが、キャリーケースなら持ち運びが十分可能なサイズと重さ。出先でヘッドフォンだけだと困るシーンでは、小型のオーディオインターフェースと一緒に持ち出すスピーカーとして適任といえる。 接続は、一般的な1台あたり2本のケーブル(LINE/電源)ではなく、片側(初期はLch)に入力と電源を集中。片側のスピーカーには専用ケーブルで繋ぐだけ。筆者環境では左右の感覚は70cm程度で設置したが、ケーブルの余裕はまだ十分にあった。 サイズ的には、一般的なPCのサイドスピーカーより少し大きい程度で、設置や接続も簡単。モニタースピーカー然とした威圧感もないから、まさに本稿の趣旨であるエンタメ用途にも馴染みそう。 ■ PS5と接続してゲームをプレイ ということで、実際の試聴に入りたいが、いきなりゲーム機との組み合わせから紹介してみよう。 国内で公開されているスペックには、USB-Cポートの対応サンプリングレートやビット深度の記載が無い。プラグ&プレイ接続対応で専用ドライバーも見当たらない。本国サイトで仕様を見ると、D3VはUSB Audio Class 1.1準拠とされている。 そこで、PS5のslim版を接続してみた。PS5は、USB Audio Class 1のオーディオデバイスであれば、サウンドの出力先として認識させられるからだ。 実際に接続すると、D3Vはヘッドフォンデバイスとして認識される。どうやらPS5は表側のUSB-Cポートでも背面のUSB-Aポートでも認識・動作するようだ。(筆者の経験上、PS5のシステムソフトウェアや型式、挿し込むUSBポートによっても認識状態やDAC側の挙動が変わったりするので要注意だ) Windows PCと接続して確認すると、サンプリングレートは32kHz/44.1kHz/48kHzのいずれかに対応し、ビット深度は16bitのデバイスとして認識されていた。24bitに対応しないのは残念だが、制作に使う方はほとんどがオーディオインターフェースと併用すると想定されるため、さほど問題はなさそうだ。 さっそく、普段パソコンを繋いでいるDELLのモニターにPS5をHDMIケーブルで接続。USB-A⇒USB-Cケーブルを使ってD3Vに接続した。 まずは、見た目がカッコいいからと何も考えずにデスクトップスタンドを取り付けて、RPGをプレイしてみたが、これは失敗だった。筆者のパソコン机では、モニターとスピーカーの台が一段上にあるため、スタンドを付けるとツイーターが耳よりも上を向いてしまうのだ。 案の定、中高域の芯があまり感じられない。奥行きの感覚もどこか不自然だ。ガツンとくるサウンドが感じられないので、スタンドを外してAETのVFE-4010シリーズを下に敷いた。すると、音像が芯を持って、定位も明瞭、耳にストーンと入ってくる。当たり前の話だが、どんなに見た目がカッコよくても、ツイーターが自分の耳の方向に向かないなら、デスクトップスタンドは使ってはいけない。 RPG「英雄伝説 界の軌跡」はサウンドが2ch制作のゲームタイトル。防音スタジオでも普段からアップミックスなどは行なわずにステレオで楽しんでいるため、そのままサイズダウンしたような環境となった。 吸音環境は、リビングなので未対策「UNTREATED」を選んでいたが、デスクサイズとスピーカー配置のスイッチは初期設定のままプレイしたところ、中低域が過剰に感じる。ローの深さはスピーカーのサイズを超えているが、量感が出すぎている。 補正をしてみよう。周波数特性の変化を表したグラフなどは見つからなかったが、本国サイトによれば、デスクサイズは「机無し」が「補正なし」で、「小サイズ」→「大サイズ」とサイズを大きくすると、段階的にローミッドとミッドがカットされるそうだ。 補正の度合いは、ローミッドが「NONE =0 dB」、「SMALL =-3 dB」、「LARGE =-6 dB」、ミッドが「NONE =0 dB」、「SMALL =-2 dB」、「LARGE =-4 dB」だ。 前述の画像の様に、デスクサイズは、机の大きさもさることながら、リスナーとの距離も設定の参考にした方が良さそう。筆者の環境では「SMALL」で設定するのが適当だった。 設置している棚板は、奥行きが20センチしかないが、すぐ下に奥行き48センチのメインの天板がある。机無し「NONE」は、いわゆるマイクスタンド設置を意味する「STAND」と連動して設定すべきと推測されることから、筆者環境では「SMALL」が妥当といえそうだ。 スピーカー配置は、スタンド設置「STAND」が補正無しで、壁際「WALL」に設定するとローを-3dBカット、角の「CORNER」に設定すると-6dBカットとなる。「CORNER」は-6dBと強めに効くので、環境によっては低音がスカスカになることも。筆者の環境では「WALL」では、ちょうどいいか少し多め。CORNERでは気持ちいいバランスだが、SEなどは迫力に欠ける。調整を完了すると、よりストレスなくゲームをプレイできた。 なお、吸音環境は高音を補正してくれるスイッチで、対策万全の「TREATED」が補正無し、中程度の対策「MODERATE」が-1.5dB、対策なし「UNTREATED」が-3dBだ。吸音対策をやっていない部屋では、高域を減衰させてバランスを整えるという趣旨のようだ。 戦闘やイベントシーン、フィールド移動などをプレイした音の印象はこうだ。 帯域バランスは、中音域が豊かで、フラットとは言い難いものの、派手さは一切無く、特に高音域の無駄な強調が無いのが良い。音像のディテールを徹底的に細部まで描くというよりは、適度な分離を実現しつつ、まとまり感を大事にしているサウンドメイクを感じる。ローは、帯域としてもかなり下まで出ているし、量感も豊富。満足のいくサウンドを得るには、各補正EQスイッチを適切にコントロールし、環境に合ったカスタマイズをすることをお勧めしたい。 パッシブラジエーターを備えたスピーカーは、確かに低音は出るが、量感過多で曇った音になるケースを経験したことがある。D3Vについては、正しく調整すれば、クリアでスケール感も備えたサウンドを味わうことができた。 ■ アクセサリーでさらに音が進化 ACアダプター駆動ということで、DC電源のノイズ対策を実施してみる。先日発売されたばかりのFX-AUDIO-から「Petit Susie Solid State」。採用部品を電解コンデンサから高分子アルミ固体コンデンサに変更したPetit Susieの上位モデルだ。ACアダプターと機器の間に挿入することで、電源ノイズやリップルを低減する。24V/125Wまで対応のため、24V/60WのD3Vにも活用できる。 Petit Susie Solid Stateを使用すると、SEの明瞭度が大きく上がった。足音や街の人の声、環境音などが、ややボヤケ気味だったところが粒立ちよくクリアに変化。BGMも含めた音量バランスは変わらないのに、明らかに個別の音が聴き取りやすくなった。S/Nも改善し、音場全体の見通しもよくなっている。BGMは高域を中心にわずかに感じた歪みっぽさが解消され、鮮度が上がった。Petit Susie Solid Stateは、アクリルケースキットを合わせても非常に安価なため、試してみてほしいアクセサリーである。 USB-C接続は、PS5だけでなくPCとも接続してテストした。サウンドの出力設定で48kHz/16bitに設定する。24bitが選べないため、ハイレゾ音楽の再生は控え、映像サービスを視聴した。U-NEXTで今期のTVアニメ「結婚するって、本当ですか」をチェック。 低音域は小柄なスピーカーからは想像も付かないほど深いところまで出ているので、バスの走行音や、意外とローを含んでいる街の雑踏といったSEが真に迫っている。繰り返すが、適切に補正EQスイッチを切替えれば、量感も適度に締まった低音域が楽しめる。 BGMやSEに結構ローが入っても、台詞ははっきり聴こえる。中高域がキレイに鳴ってほしいストリングスやアコギなどが、パッシブラジエーターの低音に影響されて濁ったりしないのもモニター機としての必要な性能が保たれている証だ。 PCとの接続はゲームをやってもいいだろう。アクションやRPGは持っていないので、「Cities: Skylines II」をプレイ。ゆったり流れるBGMは、一回りも二回りもサイズの大きいスピーカーから鳴っているような余裕と雄大さを感じる。時折流れる英語のラジオの音声は、感情豊かなDJの喋りを繊細なディテールで聴かせてくれた。ミッドがしっかり鳴ってくれるスピーカーなので、台詞がメインのノベルゲームとも相性がよいと思う。 ■ オーディオインターフェースと併用してみる 続いて、オーディオインターフェースを併用してのチェックを行なっていく。I/Oは、Antelope AudioのZen Go Synergy Coreを使用した。TRSケーブルは、MOGAMI 2534を使用。出力形式は48kHz/24bitに設定した。 先ほど、USB-C接続の時にプレイしてみたノベルゲーム「planetarian 雪圏球」をやってみると、明らかに奥行きと立体感が向上している。ボイスのディテールも精密に描いてくれて、Antelopeらしい正確なクロック技術の恩恵を感じた。 U-NEXTで先ほどと同じ作品を視聴してみると、明らかにSEの粒立ちが良くなり、音離れも良くなった。BGMや環境音などに奥行きが感じられる。リバーブも階調がきめ細かく、透明度も高い。台詞の音像から贅肉がなくなって、クッキリと描かれる。結果、演技の微妙なニュアンスが正確に伝わってくる。 TV版を録画したBlu-rayレコーダーとAVアンプのシステムで同一作品を視聴してみたが、予想に反してサウンドのバランスがD3Vと乖離していない。DALI「MENTOR 2」という大口径のブックシェルフスピーカーで聴いたときと、小型デスクトップスピーカーのD3Vでバランス感が近いというのはちょっと驚きだった。 D3Vはやや中音域が盛り気味なところはあるが、それ以外は癖が少なく、レンジも広く、さらにモニター機だけあって細かい音もしっかり聴こえる。USB-C接続時に、どうにも解像感や音場のクリアネスにしっくりこないものを覚えていたら、上流を変えたことで大きく化けてくれた。なんだか楽しくなってくる。 これは音楽も鑑賞せねばと、Audirvāna Originを立ち上げて、筆者が総合プロデュースを勤める音楽ユニットBeagle Kickの楽曲を再生する。最初に断っておくと、やはり音楽となると、細かいところまで気になってくるし、小さな違いも目立ちやすい。映像コンテンツのときは気付かなかった点もあった。 ネイティブ32bit整数録音を行なった「SUPER GENOME」の192kHz/24bit版を再生。本楽曲のベーストラックは、肉厚でボリュームがあり、そこの再現性に注目した。スピーカーとして無理している感じがなく、ボワッとフォーカスが緩くなったり、ダブついている感じもない。その見た目からは信じられない程の低音が楽曲のリズム感を盛り上げている。 それでいて、各トラックの分離もよく、ハッキリと鳴らしてくる。厳しく聴き込むと、若干中高域の解像感が甘く、やや音像に霞が掛かっているのは否めないが、豊富な機能面を振り返ればこの音質は大健闘だ。 とても小型なので、出先の環境でD3Vを持ち込んで音をチェックしたり、誰かに聴いてもらうというシーンで活躍できそう。持ち運び可能で設置もしやすいのに、ローエンドは深く、量感もあって、かつ環境に合わせて微調整できる。ちょっとずるいぞ、D3V。 先日、AV Watchで掲載したオートフォーカスマイク「RAY」の記事。自宅スタジオで録った自分のトーク音声を流してみると、リップノイズが聴いていて辛くなるくらい生々しい。モニタースピーカーらしい、”音を見る“を体現できる実力を備えているのだ。 ちょっとモニターヘッドフォンと比べて中高域の抜けがよくないため、補正EQをいろいろ試してみて、最終的には机のサイズを「SMALL」、スピーカー配置を「CORNER」にするのが妥当だった。設置の実態に合った設定もよいが、モニターヘッドフォンと比べながら、理想の中低域が聴き取れる設定に追い込むのも使い方の1つだ。 ここまで音楽用のプレーヤーからオーディオインターフェース経由で音楽や素材を流してきたが、せっかくなのでモニタースピーカーとして制作用途を想定したこともやってみよう。 ■ モニタースピーカーとしての実力は? 添付の英語マニュアルのQRコードを読むと、本国の公式ページに飛ぶ。D3Vのダウンロード一覧から、英語のユーザーマニュアルをダウンロードすると詳しい解説がたくさん載っていた。その中にボリューム調整に関する興味深い記述があった。制作用機器ならではの特徴として、ボリュームが2箇所に存在することを念頭に置いたものだ。すなわち、オーディオインターフェースのモニター出力レベルと、スピーカー自身のボリュームである。 ここで一般的なオーディオシステムを振り返ろう。プリメインアンプであれば、通常ソース機器は出力レベル固定だ。パワーアンプであっても、上流のプリアンプで音量は調整するから、さらに上のソース機器はレベル固定で送るのが一般的。 しかし、制作用の機器では、モニタースピーカーと、オーディオ入出力を担うインターフェースと、それぞれにボリューム機能が付いているケースが普通だ。コンシューマオーディオに慣れた方は、もしかしたら最初は戸惑うかもしれない。 特にD3Vは、ボリュームノブが両側ではなく片側のみ付いており、極めてニアフィールドな使い方をする機種ということもあり、必ずしもスピーカー側のボリュームを固定という訳でもないから、さらに迷いそうだ。 それを見越して、「D3V側をベースとしてコントロールする」パターンと、「ソース機器をベースとしてコントロールする」パターンと2種類の調整方法が書かれている。詳しくはユーザーマニュアルをご覧いただきたいが、どちらにするにしても、ベースとしたい機器側のボリュームをフルで使ってもスピーカー側が歪まない(本体リミッターが作動しない)ことを前提にした初期セットアップ方法が書かれていた。制作用途で使うなら参考にしたい。というか、日本語マニュアルはあった方がいい。 逆に、ちょっと趣味で配信や映像編集、ポッドキャスティングをするくらいのライトな使い方なら、D3Vのボリュームノブは黒丸が大きい箇所に合わせて固定、あとはオーディオインターフェース側のモニターレベルで調整することで運用するのも一案だ。 マニュアルには記載はなかったが、黒丸の大きいところはおそらくノミナルレベルだと思われる。本国サイトによると、ボリュームのレンジは、-∞ dB~+6 dBの範囲で調整なので、いわゆるミキサーにおける0dBフェーダーが大きい黒丸のところ。入力信号を上げてもいない、下げてもいない位置にあたると推測される。 注意したいのが、D3V側の最大入力レベルが+9 dBuとそれほど大きくないことだ。筆者のZen Go Synergy Coreは最大モニターレベルが+20 dBuで、他社のインターフェースでも+12dBuや+16dBu、+24 dBuなど様々だが、ほぼ+9 dBuを上回る。小型の機種であってもだ。あくまで最大出力レベルなので、繋いで音を出したらただちに歪むなんてことはない。再生しているソースと、モニターレベルによっては、D3Vの音が歪む可能性があるということだ。 よって、安全策を取るなら「D3V側をベースとしてコントロールする」パターンで初期のレベル設定を行ない、普段の音量調整はモニタースピーカー側で行なうのが最善である。 なお、今回はボイス素材のみでモニタリングテストを行なっており、歪み感もなかったので、D3Vは大きな黒丸で固定、オーディオインターフェース側でボリュームコントロールを実施した。 先ほど聴いたRAYで録った自分の声は、Pro ToolsでLCT 440 PUREとのレベル差だけ調整したら、WindowsのPCでテロップを乗せた動画ファイルにして公開されている。その動画作成時に、あえて手を触れなかった音声を加工してみることに。 リップノイズが激しい自分の声に、RX7のDe-clickを使ってノイズ除去を図った。本当はRX11のMouth De-clickを使いたかったのだが、編集アプリのVEGAS Pro 17が新しいプラグインの拡張子VST3に対応しておらず、持っている最も古いバージョンを使うことになった。 ヘッドフォンのT3-03で調整する場合と比較してみたが、ノイズチェックはやはりヘッドフォンが優勢と感じた。D3Vだと周りの環境ノイズに邪魔されて、極めて小さいノイズは知覚できない。また、大きい音の直後の小さい音も気付きにくかった。 本来はヘッドフォンとスピーカーを併用しながら、調整したいところだが、あえてスピーカーだけでパラメーターを追い込んでみる。そうすると、案外同じくらいのパラメーターでSENSITIVITY(感度)とCLICK WIDENING(クリック幅)が落ち着いた。CLICK WIDENINGを調整すると、SENSITIVITYをそれほど大きくしなくても、リップノイズを緩和できるのだが、上げすぎると声の芯がゆらいでいるような不自然な音になるので、微調整をしながら最終的に1msとする。スピーカーでやっても、ほぼ同じくらいの値に落ち着いた。 感度はやや難航したが、3~4をベースに何度か小数点以下で微調整していけば、ヘッドフォンで決めた値と大きく変わらない値3.8に落ち着いた。ヘッドフォンのときは3.3だった。一番気を付けたいSENSITIVITYを上げることによる声の鮮度劣化は、確かに分からないことはない。ただ、ヘッドフォンの方がより音質の変化をチェックしやすい。やはり併用は必須だろう。 次に、ローカットもやってみた。RAYの音声は、そのままの音を聴いてもらいたかったので、EQも未処理で公開した。普段は必ずといっていいほど行なう余分な低域のカットはD3Vでどの程度追い込めるのか。今回のケースで言うと、ローカットは、D3Vでも調整可能だった。マニアックな話で申し訳ないが、このコンパクトさで60Hzのローカットと80Hzのローカットの違いが聴き取れるとは予想をいい意味で超えてくれたと思う。 一方、ヘッドフォンでも聴き分けられない40Hzと60Hzのローカットは同じくスピーカーでも違いが分からなかった。素材が人の声ということもあるだろうし、カットするカーブの形=ロールオフ設定(dB/oct)も出音に影響していると思われる。ちなみに60Hz以上は、20Hz刻みで周波数を上げていっても、ちゃんとローカットの掛かり方の違いが音になって現れた。なかなかに実用的だと思う。ただし、暗騒音の除去も目的としたローカットなら、ヘッドフォンも併用して厳密に聴いた方がよい。 ■ 小さくても“使える”モニタースピーカー 防音スタジオでは、Discrete 8 Pro Synergy Coreを中核に置いたシステムでD3Vを鳴らしてみた。本当はもっとスピーカーを奥側に置きたいのだが、Macから伸びる各種ケーブルが設置場所を邪魔しており、やや前方になっている。そのため、キーボードを操作するときはステレオイメージにめり込むようになってしまった。音のチェックは上体を起こしてリラックスした姿勢で試聴している。 デスクトップスタンドは、満を持して活用した。楽に作業できる椅子の高さのとき、ちょうどいい向きにツイーターユニットが位置する。耳の方向にユニットが向くということは、ディスプレイもユニットと平行に近付くということでもある。目線と耳の高さはほぼ同じだからだ。お陰で奥行き表現や高域のエネルギー感など、間にモニターがあっても理想的だった。 先ほどと同じくRAYとLCT 440 PUREの比較を行なったPro Toolsのセッションを開いて、それぞれの音声のPANを調整してみた。モノラルの音声を、PANの設定で左や右に定位をずらすテストである。はたして、16インチのMac Book Proのサイドに置いたすぐ傍のモニタースピーカーで知覚できるのか。 左右の間隔が狭いし、微細な違いの判別は難しいかと思ったが、左や右に8ほど振ったら定位の変化がハッキリと聴き取れた。もっと左右を離して理想的なセッテイングにすれば、聴き分けやすくなるので、可能なら “二等辺三角形”の一辺の長さを広く取りたい。 最後にヘッドフォン出力を試す。ヘッドフォンを挿せば、スピーカーは自動でミュートになる仕様だ。残念ながら、S/Nが思わしくなく、これでチェックをするのは難しいと感じた。リスニング用途としてもお勧めしにくい。基本的にはDACやオーディオインターフェースのヘッドフォン出力を使ってもらうのがよいと思う。あとは、外出時、やむを得ないときのチェック用だ。 D3Vは、その小柄なルックスからは想像も付かないほどのローの充実ぶり、そして環境に合わせて補正できるEQスイッチの実用度が合わさって、想像以上に“使える”モニタースピーカーであることが確かめられた。低音が深いところまで適度な量感で出るというのは、臨場感には欠かせない要素。ゲームに映像に音楽に、遊びの用途で使っても、そのサウンドはPCスピーカーとは一線を画す満足感を与えてくれるだろう。
AV Watch,橋爪 徹