倉田真由美さん、もうすぐクリスマス「夫はもういない。悲しみはいつも横にある」
漫画家の倉田真由美さんの夫、叶井俊太郎さん(享年56)がすい臓がんにより旅立ったのは今年2月のこと。夫を亡くしてから初めて迎える冬――。ある冬の穏やかな日、妹と一緒に過ごした日のエピソード。 【画像】夫がいない悲しみ、涙を堪えて歩いた公園で、見上げた空の景色
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。 夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック は現在Amazonで無料で公開中。
妹と公園に行ったときのこと
最近、また悲しみに沈む時間が増えてしまいました。 段々気持ちが癒えてきたと思っていたけど、やはり簡単ではありません。時間が癒してくれるというのは本当ですが、単純に時間の経過と感情が正比例するわけではないのです。その人の性格にもよるし、周囲の環境、何かのきっかけで悲しみはその大きさ、形を変え存在し続けます。 私の場合、思い当たるきっかけはあります。先日まで住まいのある他県から来てくれていた妹と、とある公園に行ったことです。 その公園は、子どもが小さい頃に家族で時折訪れていた場所です。我が家から近くでもないけど遠くもなく、いつも数十分自転車を漕いで来ていました。夫の後ろ姿を見ながら。 夫としか来たことのない場所でした。夫と知り合う前には一度も訪れたことがありません。大きな銀杏並木がある、ジョギングする人たちと絶えずすれ違うその道、その風景にはいつも夫がいました。 仲のいい妹と二人で紅葉を眺め、落ち葉を踏みしめながら歩きました。冬の空気ながら空には雲ひとつなく、歩いていると身体がポカポカ暖かくなる散歩日和でした。
涙を堪えて歩く銀杏並木
でも、どうしても思い出してしまって。子どもの自転車の練習をここでしたこと、夫が手助けしていた様子、そして補助輪なしで初めて乗れた時の夫の喜びよう。茂みに見たことがないキノコがたくさん生えていて、家族で眺めたこと。夫はキノコにはさして興味なさげだったこと。 妹と歩きながらも思い出がどんどん溢れ出てきて、苦しくなってしまいました。妹との散歩は楽しいのに、夫がもういないことで胸がいっぱいになり、でもそれは妹には言えなくて涙を堪えて歩きました。 変に泣くのを我慢したせいかもしれません。その後ずっと妙に涙もろくなり、妹が帰宅するのを駅で見送った時も泣いてしまいました。悲しみはいつも横にあって、すぐにそれが顔を出す感じです。 もうすぐクリスマス。去年はケーキを買ってきて家族で食べました。バタークリームのブッシュドノエルは、私には甘すぎたけど夫は気に入ってたくさん食べていました。今年は娘と二人きり、どう過ごすかまだ決めていません。 倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯 夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。