ユネスコ認めた「伝統的酒造り」被災した奥能登の酒蔵「盛り上がる」…海外ビジネスに追い風
日本酒や焼酎、泡盛など「伝統的酒造り」が、国連教育・科学・文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになった。生産者は伝承への思いを新たにしている。
石川県珠洲市の「宗玄酒造」は、創業250年を超える老舗の酒蔵だ。元日の能登半島地震では、奥能登地域の酒蔵11社が全て被災し、宗玄酒造も蔵に土砂が流入。出荷前の貯蔵タンク40基の一部に傾きやひびが生じ、半分以上の酒の廃棄を余儀なくされた。9月の大雨でも、土砂崩れで水が一時確保できない状態に陥ったが、職人たちは諦めることなく酒造りを進め、11月末には今季の新酒が完成する予定だ。
同社の八木隆夫社長(61)は「登録されれば被災地が盛り上がるきっかけになる。自分たちが酒造りを続けることで、復興の手助けになればうれしい」と話した。
創業122年となる岩手県二戸市の酒蔵「南部美人」の社長で、県酒造組合会長の久慈浩介さん(52)は、「技と心を受け継いだ身としてありがたいし、誇りに思う」と語る。1997年から輸出に力を入れてきた同社は、日本酒の海外販路を先駆的に拡大しており、久慈さんもこれまで60か国超でセールスを行ってきた。「無形文化遺産に登録されれば、ビジネスとしてもさらなる追い風になる」と期待を込める。
「日本の伝統的なこうじ菌を使った酒造り技術の保存会」の会長を務める「小西酒造」(兵庫県伊丹市)の小西新右衛門社長(72)は「受け継がれてきた技を大切に守り、生かしていく上で登録は大きな励みになる」と喜ぶ。
麦焼酎で知られる酒造会社「天盃(てんぱい)」(福岡県筑前町)の多田格社長(59)は、「『日本の国酒です』と、胸を張って世界に打って出る際の心のよりどころとなる」と語った。
「伝統的酒造り」の無形文化遺産登録を政府が目指してきたのは、日本の酒のブランド力を海外で高める狙いからだ。
国税庁によると、日本酒の国内の出荷量は1973年度の約177万キロ・リットルがピークで、その後は他の酒との競合や酒を飲む場の多様化など生活様式の変化で減少した。2023年度の出荷量は約39万キロ・リットル(速報値)で最盛期の4分の1以下だ。一方で日本酒の輸出量は13年が約1万6000キロ・リットルだったが、22年には過去最高の約3万6000キロ・リットルを記録した。
担い手確保も課題だ。「日本酒造杜氏(とうじ)組合連合会」によると、同会所属の杜氏の数は1965年度は3683人だったが、2022年度は712人と減った。同会の石川達也会長(60)は「業界全体で後進育成を考えなければならない」と話し、無形遺産登録が弾みになると期待する。