「新1年生の命を奪わない運転を」専門家が語る“構えブレーキ”と“予測ブレーキ”の重要性
「構えブレーキ」と「予測ブレーキ」が子どもを事故から守る
――子どもの動きは予測がつかないということですが、運転者はどう対処すればいいでしょうか。 上西一美: 僕は“二つのブレーキ”っていうのをいつもお勧めしています。一つは「構えブレーキ」といって、見通しの悪い交差点や車の死角ができる場所では、ブレーキに足を置いた状態で進入して行くというものです。これはもう、最低限やっていただきたいことです。 運転者は何か危険を感じてから0.4秒から0.5秒ぐらいで反応でき、その後アクセルをブレーキに踏み換える時間が0.2秒かかります。ブレーキに足を置いておくと、この踏み替え時間の0.2秒をカットすることができるんです。また、止まる心構えができていると、反応速度も速くなります。このように死角であったりとか、見えにくい場所っていうのはブレーキに足を置いておく「構えブレーキ」が最低限必要になると思います。 それと、もう一つは「予測ブレーキ」です。歩道にいた子どもが、飛び出しをしてきたが、衝突を回避できた、とあるドライブレコーダーの映像では、ブレーキを踏んだタイミングが非常に早いことがデータに表示されていました。そのドライバーは、歩道に子どもがいた時点でブレーキを踏んでいたんです。なぜそんな早いタイミングでブレーキを踏んだのか、ドライバー本人に質問をしてみたんですけど、彼は、歩道にいる子どもの動きをみて、もしかしたら車道に出てくるんじゃないか、と思った瞬間にブレーキを踏んで減速したと言っていました。自分が危ないって感じた時点で、減速をするブレーキを踏むことで、想像がつかない動きしてくる子どもに対して、危険を回避することができたのだと思います。
自分の行動を変えれば、絶対に事故が減る。危険なところではブレーキに足を置く。
――上西さんは、ドライブレコーダー映像でたくさんの事故を見てこられたと聞きます。交通事故を防ぐには、何が必要だと思いますか。 上西一美: 事故を起こす人と起こさない人の決定的な違いっていうのは、頭の中で分かっていても行動しないか、するか、なんですよね。頭では分かっているんだけど、急ぎたいから速度を出したいとか、面倒臭いから止まりたくないとか。こうしてはいけないという危険な場面を頭では分かっているならば、ぜひ行動に置き換えて欲しいです。そして行動を変えることによって、僕は絶対に事故が減ると思っています。 では、行動を変えるって何なのかというと、ブレーキなんです。車の運転の場合は、もうブレーキを踏めるかどうかだけなんですよね。シンプルに危ないと感じたら、ブレーキを踏む。自分でこういうところは危険だなと感じたところでは、ブレーキにあらかじめ足を置く。この行動を取れるかどうかだと僕は考えます。 事故防止というのは、危険に対する想定の多さが大きく影響します。なので、交通事故のニュース記事を見るというのは、すごく大事な行為です。他人の事故から、自分がどんな行動を取れば良いのかということを想像する。誰かが起こしてしまった不幸な事故ですが、それを無駄にしないというか、起こってしまった事故から学ぶべきことは多いので、そういう意味では、しっかりとニュースなどを見ていただき、危険に対する想定を増やしてほしいと思います。 またその危険の想定をすることが、交通事故の疑似体験になれば、多分皆さんが不幸な事故を起こす前に、行動パターンが変わるんじゃないかなと思います。ぜひそういったところも意識して、ちょっと危険そうだと感じたところでは、「ブレーキに足を置く」ことをやってみてください。 ------------ 上西一美 大手企業を経て神戸のタクシー会社の社長を経て独立。その経験を元に、2万件以上のドライブレコーダーの映像を使った交通事故防止コンサルティングを開始。その独特の防止策で、依頼企業の交通事故削減を実現している。2012年一般社団法人日本事故防止推進機構(JAPPA)を設立し、理事長に就任。愛知県警察交通安全サポーター、千葉県トラック協会交通対策アドバイザー。