『美食家ダリのレストラン』ダリ好きオーナーの“推し活”が最高に面白い映画!【おとなの映画ガイド】
スーパースター的存在の芸術家サルバドール・ダリと、伝説の三ツ星レストランの天才シェフが、同じ世界線で生きていたら……、そんな発想から生まれた映画『美食家ダリのレストラン』が8月16日(金)、全国公開される。ダリが住んでいるスペインの海辺の街を舞台にした、とびきりの料理で彩るヒューマンドラマだ。 【全ての画像】『美食家ダリのレストラン』の予告編+場面写真(7枚)
『美食家ダリのレストラン』
サルバドール・ダリといえば、20世紀を代表する芸術家のひとり。圧倒的な個性でシュルレアリズム(超現実主義)作品を生み出し、自身をもブランド化してしまうそのパワーは、ときに「ドルの亡者」と言われたことも。 そんなダリが絶大な名声と人気を博していた1974年がこの映画の舞台。彼が暮らしている海辺の街カダケスにある、ぶっ飛んだレストランの物語だ。 レストランのオーナー、ジュールズ(ジョゼ・ガルシア)は、ダリを心から尊敬、というか崇拝している。「ダリに自分の店でディナーを食べてもらう」ことをひたすら夢見ている。店内の装飾はダリ作品のレプリカであふれ、ダリが近隣でアート活動をすると聞けば、カメラを持って追いかける“推し活”ぶりだ。レストランの店名も、もちろんダリにちなんで「シュルレアル」。 あるとき、彼の店に、バルセロナの一流レストランで次期料理長と嘱望されていたフェルナンド(イバン・マサゲ)が飛び込んでくる。スペイン軍政下、ひと悶着を起こし、弟のアルベルトとふたりで友達のツテを頼ってやって来た、料理に情熱を燃やす生真面目な男だ。しかし、ジュールズは彼の料理の腕に気づかず、ひたすらダリを追いかける日々……。 実は、この料理人フェルナンドには、“モデル”がいる。約50しかない席に世界中から年間200万件もの予約希望が殺到し、「世界一予約が取れないレストラン」と呼ばれていた、スペイン三つ星レストラン「エル・ブジ」のシェフ、フェラン・アドリアだ。 脚本も担当したダビッド・プジョル監督は、「エル・ブジ」のTVドキュメンタリーシリーズと、ダリのドキュメンタリー映画3本を手がけた実績がある。それゆえに「この天才ふたりに、もし接点があったら?」というアイデアが生まれたという。 紆余曲折があって、フェルナンドは「シュルレアル」の料理長になるのだが、その厨房のこだわり、仕事のスタイルは、フェラン・アドリアの考え方を反映しているようだ。 新たなレシピに挑戦するフェルナンド、オーナーのオタク味溢れる生活、その父を支える魅惑的な娘とその恋人、人がいいダリおかかえの運転手……、それぞれの人生が、おっとりとしたカダケスの地で交錯して、物語は思わぬ方向に進む。料理とアート、そして繰り広げられる人間模様、エスプリのきいた会話。いやあ、なかなかの味わいです。 創り出される料理のメニューは「キャロットエア」「チキン・カレーのアイス」「ウニと白インゲン豆の泡仕立て」「トマトのグラニテとアーモンドミルクプリン」といった、実際にエル・ブジで供されたものも。 そこここに「ダリがいる」。そして、地中海の陽の光のなか、彼が愛したカダケスの美しい景色がある。 さて、お待ちかねのダリは、この店を訪れるのだろうか? 文=坂口英明(ぴあ編集部)