フリーアナウンサー・神田愛花『あなた、ジローラモさんですか?』
今、シンガポールに向かう飛行機に乗っている。海外旅行といえば北米ばかりで、航空会社といえばJALばかりの私。約20年ぶりに乗ったシンガポール航空の機内が、とても新鮮で楽しい。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~60回)はこちら まず、客室乗務員さんが英語で話しかけてくる。機内で言葉の不自由さを感じるのが久しぶりで戸惑ってしまい、なんとも情けない。先程も、「食べ終わった? 片付けていい?」と英語で聞かれたのだが、すぐに理解できず、(えーっと、このタイミングで話しかけられるということは……″片付けていいか?″だ!!)と推測してから、「オ、オッケー」と返答した。頼んだはずのビールも出てこないし、パンも2種類リクエストしたが1種類しか渡されなかった。英語に自信がないから声も小さく、伝わっていないのだろう。普段は「これまで80回以上海外旅行に行きました!」なんて豪語しているのに、現実はこの有り様。笑ってしまう。 それと、乗客の雰囲気も少し違う。漂ってくる香水の香りが、よく知る機内とは違う系統で、(住んでいる地域によって香りの好みも変わるのかな?)なんて考えている。飛行機に乗っている時って、こういう細かいことに気付き、考える時間があるから、楽しくて大好きだ。 ただ一つ問題が。通路を挟んだお隣の席に座っている男性が、パンツェッタ・ジローラモさんなのか、そうではないのか、わからないのだ。目鼻立ちも輪郭も、四度見してしまったくらいそっくり。「僕、ジローラモです」とその方がおっしゃったら、もしそれが嘘だったとしても絶対みんなが信じると言い切れるくらい、そっくりだ。 ジローラモさんとはこれまで何度も仕事でご一緒し、お世話になった。もしご本人ならちゃんとご挨拶をしたいが、違ったら恥ずかしい。 実は以前も、麻布十番でジローラモさんらしき方を見かけたことがある。その時は、赤いスポーツタイプのオープンカーを路肩に停め、ボンネットに腰掛けながら、両手をズボンのポケットにイン。ちょいワルおやじオーラをビンビン放ち、数人の外国人とお話しされていた。私は夫とウォーキング中だったので、ご本人かどうか確認せずに立ち去った。 また、ある時は山手線の車内。ジローラモさんにそっくりな方がドアに背を預けて立っていた。彼はサングラスをかけていたので目を見ることはできなかったが、やはり両手をズボンのポケットに入れ、ちょいワルおやじ感がプンプン。その時はまだジローラモさんと面識がなかったので、確認のために話しかけるという発想はなかった。 ◆気になってそわそわ ジローラモさんとこんなに何度も偶然お会いするわけがないのだから、そっくりな方が何人もいるということなのだろうか? でもあんなに個性的な人が、何人もいるわけないしなぁ。 ジローラモ問題について考えていたら、逆サイドのお隣さんが、私との境にあるパーテーションをウィ~ンと上げ、壁を作った。ビジネスクラスには隣の席と自席を隔てるパーテーションがあり、お互い個室のような空間で食事を楽しんだり、睡眠を取ったりできるのが醍醐味。なので、いずれはどちらからともなくパーテーションを上げるのだが、実はそのタイミングが、私にとって長時間フライトの大切なポイントになるのだ。 離陸してすぐ自分から上げると、「あなたの存在なんて感じたくないんです」と、喧嘩を売っていると思われないか心配になる。かといってあまり長々開けたままにしていると、他人と二人旅をしている錯覚に陥り気持ちが悪い。じゃあ相手のタイミングに任せれば? と思うのだが、先に上げられてしまうと、(もしかして私、臭い?)とか(呼吸音がうるさい?)など、原因が自分にあるのではないかと気になり、その後のフライト中ずっと居心地が悪くなってしまうのだ。 今日のお隣さんは、離陸して早々に壁を作りやがった。(なんで!?)。理由が気になって仕方ない。もう片方の隣人は、ジローラモさんなのかどうか、(ハッキリして!)。気になって仕方ない。つーかジローラモ、パンのおかわり、もう3回目じゃない!? 私の心をざわつかせるお隣さんたち……こりゃ、シンガポールまで一睡もできないぞ! かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年8月23・30日合併号より イラスト・文:神田愛花
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