【製パン業界大研究】″絶対王者″山崎製パンに敷島製パン&フジパンが″虎視眈々″
主食になりつつある″食パン″界の覇権争い
いま、FRIDAY記者の前に3社が販売する3種類の食パンが並んでいる。愛知県名古屋市に本社を構える敷島製パン(Pasco)の『超熟』、同じく名古屋に本社を置くフジパンの『本仕込』、東京都千代田区に本社を置く山崎製パンの『ロイヤルブレッド』だ。この3商品はそれぞれ根強いファンを獲得し、食パン界の覇権を争っている。 【画像】絶対王者は「山崎製パン」 製パン業界大戦争「勢力図」 最も歴史のある’93年発売の『本仕込』は、モチモチとしたテクスチャーが特徴だ。トーストすると外はサクサク、中はもっちりという食感のコントラストを楽しむことができる。コメを主食とする日本人は、西洋人に比べて唾液の分泌量が少ないことから、水分量の多いパンを好む傾向にある。『本仕込』はそのニーズに応え、炊き立ての白米のように食べられる食パンを目指している。 最後発となる’12年発売の『ロイヤルブレッド』は、食感重視で食べやすい『本仕込』とは異なり、口に含んだ瞬間に芳醇なバターの香りが拡がり、噛(か)むほどに小麦の旨味を感じることのできるリッチな味わいが特徴だ。その分、価格も他2商品に比べて高くなる。 そんな『本仕込』『ロイヤルブレッド』を抑え、現時点で食パン界の圧倒的ナンバーワンに君臨しているのは、’98年発売の『超熟』。最大の特徴は、突出した小麦の香りである。『本仕込』と同じくトーストすると外サク、中モチの食感を保ちつつ、香り高さとほのかな甘みを併せ持つ。焼いてもそのままでも美味しい至高の食パンを実現しているのだ。 ’11年、販売価格ベースで一世帯あたりのパンの消費額が白米を上回る大転換が起こり、今年は「令和の米騒動」と称される歴史的米不足が起こった。いまや食パンは日本国民の主食となりつつある。 そんな食パン界を牽引する敷島製パンは、1920年創業の老舗企業だ。『超熟』発売までの約80年間も、製パン業界の第一線を走ってきた。では、『超熟』はいかにして″至高″なのだろうか。 「特徴はなんと言ってもPasco(敷島製パンのブランド名)が独自開発し特許を取得した『超熟製法』です。『超熟』の開発当初、日本人が好むしっとり・もっちり食感を実現するため、敷島製パンは『湯種製法』を採用しました。これは、小麦粉や砂糖、塩などパンの原料を熱湯でこねることによって糊化(こか)させ、生地から水分が逃げにくくする製法です。 しかし、この製法には欠点がありました。品質が安定しにくく、製パン会社での大量生産には不向きだったのです。これを改善すべく、敷島製パンの開発チームは半年かけて小麦粉と熱湯の割合を調整し、低温でじっくりと熟成させるように焼き上げる製法を編み出しました。これが『超熟製法』なのです」(製パン業界に詳しい経済紙記者) 革命的な商品開発によって敷島製パンは現在、非上場ながら年間1617億円を売り上げる巨大企業へと成長した。 ◆圧倒的な王者の総合力 一方、この『超熟』ブームに苦々しい思いをしていたのが、1922年創業のフジパンである。 「『超熟』の5年前、フジパンは同じ″外サク・中モチ″がコンセプトの『本仕込』を売り出していたのに、後発の『超熟』に抜かれてしまった。その要因は製法の違いなども考えられますが、パッケージのスタイリッシュさを含むマーケティング力にも差が出たと思います。『本仕込』のパッケージは従来の食パンにも多く使われている赤や黄色で構成されているのに対し、『超熟』はそれまで使用されてこなかった青色で構成されている。この”新しさ”が、消費者に大きなインパクトを与えたのです」(同前) 年間2882億円の売り上げを誇るフジパンは、その開発力を背景にさまざまな革新的商品を生み出してきたが、マーケティングの力で後発の他社に差をつけられることが多い。象徴的なのが、’75年発売の『スナックサンド』だ。 「耳を落とした食パンに具材を挟んでプレスしたサンドイッチです。発売当初は人気を博しましたが、現在では、その9年後に発売された山崎製パンの『ランチパック』のほうが有名になってしまった。山崎製パンのほうが広告に大きく投資したからです。現在、フジパンはパッケージに『元祖 since 1975』の文言を印刷するなど工夫していますが、勢いは『ランチパック』に劣る」(マーケットアドバイザーの天野秀夫氏) このように、他社のヒット商品の魅力を積極的に自社商品に取り入れてきたのが、年商1兆1755億円を誇る絶対王者・山崎製パンである。 「山崎製パンは当時革命的だった『超熟』の青いパッケージも、『ロイヤルブレッド』に取り入れている。 また、武器にする商品を一つに絞らず、多岐にわたる商品展開を行うことも特徴です。食パンを例にとれば、敷島製パンが『超熟』を、フジパンが『本仕込』を中心に展開しているのに対し、山崎製パンは食パンだけで10種類以上のラインアップを持つなど多彩です」(同前) 菓子パンやスナック菓子などの流通に詳しいお菓子勉強家の松林千宏氏は、「山崎製パンの強みは商品流通のすべてを押さえていること」と話す。 「創業時より、『自分で作って、運び、売る』というビジネスモデルを貫いています。商品を自社トラックで全国のコンビニに届けることで、消費者のニーズを捉えて市場動向の把握やマーケティングに活かしている。全国に物流網があるため、病院や大学などの売店にも販路を広げています」 今季の人気ナンバーワンヒット商品を生み出したのも、山崎製パンだった。 「『薄皮たまごパン』が今年1月に発売され、7ヵ月で1200万パックを販売する大ヒットを記録しました。これまで『薄皮シリーズ』といえば、チョコやクリーム、つぶあん、ピーナッツなどの菓子パン系が多かった。しかし、コロナ禍以降に中食需要が拡がったことで、『薄皮シリーズ』で総菜パンを作ることを決意。ロングセラーの『ランチパック』に影響を受け、卵を使えば売れると確信して開発に及んだのです」(同前) 圧倒的なマーケティング力に、全国に張り巡らされた物流網を誇る絶対王者に対し、敷島製パン、フジパンは為す術(すべ)がないのだろうか? 「『ネオバターロール』など、フジパンのネオシリーズが勢いを増しています。中にマーガリンが入っていて、すぐに食べられる手軽さから、コロナ禍に大きく売り上げを伸ばしました。現在では黒糖入り、全粒粉入り、ライ麦入りと横展開することで、さらにラインアップを強化しています」(日刊経済通信社製粉担当記者の川田岳郎氏) 敷島製パンには、『超熟』以来の革命的な商品開発が期待される。 「’98年の『超熟ショック』は、業界を揺るがしました。今後、強みである開発力を背景に新たなショックを起こすことができれば、山崎製パンの背中が見えてきます」(前出・記者) 王者を追う2社は、新時代の頂点に向け、虎視眈々とその爪を研いでいる。 『FRIDAY』2024年10月18・25日合併号より
FRIDAYデジタル