「最大の違いは脳のキャパシティ」もはや最速マシンではないレッドブルで勝利を重ねるフェルスタッペンの“特別な能力”《ここ3戦はPP奪えず》
「勝てたかもしれないではなく、勝たなければならなかった。今週末の僕たちのマシンは間違いなく最速だったと思う。スタートが悪すぎて、序盤でペースを失ったんだ。それだけだ」 【レジェンド写真】マクラーレン時代のホンダとセナ、プロストがカッコよすぎ。初々しいシューマッハー、ヤンチャそうなマンセル…懐かしきF1ヒーローの雄姿を見る(20枚超) 第10戦スペインGPでポールポジションからスタートしながら優勝を逃したマクラーレンのランド・ノリスは、そう言って悔しさをにじませた。そのノリスを下して勝ったのは、レッドブルのマックス・フェルスタッペンだった。だが、勝ったフェルスタッペンの言葉には勢いや余裕が感じられない。 「いまや、僕たちのマシンは決して最速じゃない。今後、チームはもう少しマシン開発を頑張って、ライバルに追い付かなければならない」 決して王者の謙遜ではない。事実、レッドブルとフェルスタッペンは第8戦モナコGPから3戦連続で予選でポールポジションを獲得していない。それでもモナコGPを除く2戦で勝利を挙げている。 じつは最速のマシンでなかったにもかかわらず、フェルスタッペンがレースで勝利を挙げたことは何度もある。たとえば2022年。この年のF1は、新レギュレーションによって車体が大きく変わった。そして前年、メルセデスと激しいチャンピオンシップ争いを演じたレッドブルは、マシン開発で後手に回ったまま22年を迎えていた。 「あの年、少なくとも前半戦で一番速かったのはフェラーリだった。僕たちは最終的にチャンピオンを取ったけど、決して最速ではなかった」 フェルスタッペンはそう述懐する。
ホンダのエンジニアが語る王者の才能
最速のマシンでなくても、なぜフェルスタッペンは勝てるのか。レッドブルでHRC(ホンダ・レーシング)のチーフエンジニアとして働く湊谷圭祐は、フェルスタッペンの秀逸さを次のように語る。 「マックスとほかのドライバーの最大の違いは、脳のキャパシティだと思います。いろんなF1ドライバーを見てきましたが、マックスほど余裕を持って自分の走りに集中できるドライバーはいません。ミスなく速く走るのはもちろん、コースサイドの大型スクリーンでほかのマシンのピットストップの状況を見たり、誰がどのくらいのタイムでファステストラップを持っているのかを確認したりしています」 レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はそれについて、こんなエピソードを明かす。 「あるグランプリのフリー走行のときのことだったが、マックスはレースエンジニアと走行プランに関するピットとの無線のやりとりの最中、ピット側で電話が鳴っていることに気づき、笑いながら『誰かに電話がかかってきているみたいだね。ヘルムート(・マルコ/モータースポーツアドバイザー)じゃないかな? 』と交信してきたことがあったよ」 その余裕があるからこそ、競り合いやプレッシャーがかかる場面でもミスのない安定した走りが可能になる。そしてそれは、最速マシンでないにもかかわらず、22年にフェルスタッペンがフェラーリのシャルル・ルクレールを下して2連覇した理由でもある。 最速のマシンを手にした昨年は、その余裕がフェルスタッペンにより速く走るヒントを見つける時間を与えていた。 たとえばアゼルバイジャンGP決勝レース中のこと。このレースでフェルスタッペンはチームメートのセルジオ・ペレスの後塵を拝し、2位に終わった。敗因にはセーフティーカー導入のタイミングが不利に働いたこともあったが、そもそもフェルスタッペンにはペレスを逆転できるペースがなかった。 フェルスタッペンが苦しい走りを強いられたのは、ブレーキバランスがフロント寄りだったため、コーナーでアンダーステアが出ていたからだ。チームはアンダーステアを解消するためにブレーキバランスをリア寄りにしたが、リアブレーキはエネルギー回生にも連動しているためエンジンブレーキの影響が大きくなり、ブレーキング時にリアが不安定な状況に陥っていた。 並のドライバーであれば、そのまま走って2位でチェッカーフラッグを受けるところだが、そんな状況でも余裕を持ってレースができるフェルスタッペンは、その状況を克服するためにコクピットの中でエンジニアとともにトライを行った。ホンダのスタッフにエンジンブレーキのセッティング調整を頼み、リアの安定性を上げたのである。 これでペースを取り戻したフェルスタッペンだが、チェッカーフラッグまで残りわずかだったため、逆転するまでには至らなかった。フェルスタッペンはそのレースをこう振り返る。 「勝てなかったレースからでも多くのことを学べると知ったという点で、昨年のアゼルバイジャンGPはよく覚えている。レース中にマシンについて様々なことを試したからね」 速くないマシンでも速く走らせる方法があることを学び、フェルスタッペンはドライバーとしてさらに成長。その後、イタリアGPまで10連勝することとなる。
当代最速ドライバーの特別な能力
その余裕は、レッドブルのマシンが最速でなくなった今シーズン、フェルスタッペンの強みとなり、混戦の中でもチャンピオンシップのリーダーに立っている最大の要因となっている。 スペインGPの逆転優勝を見届けたホーナーは、こう言ってほくそ笑む。 「昨年のように30秒以上差をつけて勝つほうがチーム代表としては楽でいいが、今日のようなレースも悪くない。かつての偉大なドライバーたちと同じように、マックスが持っている特別な能力を見ることができるからね」 今週末はレッドブルの母国オーストリアでレースが行われる。フェルスタッペンはどんな“特別”を見せてくれるだろうか。
(「F1ピットストップ」尾張正博 = 文)
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