「登山料10万円」も検討すべし…「富士山」に入山規制導入も効果ナシ 専門家が語る本当に有効な「オーバーツーリズム対策」とは
1日の登山者数を制限するなど、満を持して「オーバーツーリズム対策」に踏み切った富士山が、9月10日に閉山を迎えた。結論から言えば、対策の効果は薄く、今年も遭難、転落事故が相次いだだけでなく、麓のコンビニでは、外国人観光客による“迷惑行為”を受けて、富士山を隠す「黒い幕」が設置されるという事態まで発生した。我が国が誇る世界遺産は、どうすれば守ることができるのか。観光政策の専門家が指摘する。(戸崎肇/桜美林大学航空マネジメント学群教授) 【写真】「DON’T TOUCH」まがまがしい雰囲気さえ漂う、富士山の麓のコンビニで設置された「黒い幕」 ***
コロナ禍によって壊滅的な影響を受けた日本の観光業界であったが、急激な円安も追い風となり、海外からの旅行者数は今やコロナ禍前の水準を上回るまでに急回復している。 こうした中、日本の象徴の1つである富士山に登ろうという人の数も、日本人、外国人を問わず増加している。しかしこれは良い面ばかりではなく、十分な休息をとらないで一気に頂上を目指す「弾丸登山」が行われ、遭難や滑落死などの事故が多く発生するようになったり、登山者が激増することで登山道が渋滞し、多くの廃棄物のために、富士山の自然環境が劣化したりしている。 これはいわゆる「オーバーツーリズム」の一例であるといっていいだろう。 そのような状況を受け、今年山梨県は、1日の登山者数の上限を4000人に制限し、1人あたり環境整備の協力金1000円に加え、2000円の通行料を徴収するなどの対策をとったのだが、大きな改善は見られていない。
増加する「弾丸登山」
無茶な富士登山が続出する背景には、富士山は誰でも登ることができる平易な山というイメージが国内外で浸透していることがあると思われる。それは富士山が日本の象徴でありながら「親しみやすい山」としてとらえられていることの証ではあるが、登山者の命を守る上では、かえってマイナスの効果をもたらしていると言わざるを得ない。 途中に山小屋で1泊もすることなく、一気に富士山登頂を目ざすという「弾丸登山」が危険であることは想像に難くないだろう。宿泊施設を利用せず、登山道の脇で露天の下、睡眠をとるという「無謀な」行為も報告されている。安く済ませたいという気持ちはわかるが、睡眠を十分にとらずにかなりの体力を伴う登山を行うことがいかに危険なものであるか、理解されていないのだ。 現に、そのような登山者の遭難や転落事故が今年も相次いでいるし、近年は高齢者が軽装で登山を行い、命を落とすというニュースもよく耳にする。痛ましい事故ではあるが、多くの関係者に負担がかかり、かつ多額の出費が発生している事実もある。登山の対象としての富士山の「恐さ」についても、しっかりと伝えていかなければならない。