「登山料10万円」も検討すべし…「富士山」に入山規制導入も効果ナシ 専門家が語る本当に有効な「オーバーツーリズム対策」とは
SNSの功罪
富士山をめぐる観光問題は、「SNS」の発達も大いに影響している。 海外からの旅行者は、SNS上での情報を基に自らの旅行プランを考え、実行するようになった。自国のインフルエンサーが、実際に日本を旅行した経験について投稿した情報をもとに、旅行計画を立てるのである。その一方で、日本人が提供する情報はあまり参考としない、あるいは参考とできない場合が多いものと推察される。彼らの多くは日本語が読めないし、英語で紹介されたサイトはあるものの、アジア人をはじめ、英語ができる人ばかりではない。自国の情報源に頼ろうとするのは仕方のないことなのである。 そうなると、日本人には想像が及ばないような場所が、外国人観光客にとっては魅力的な観光地となる場合が増えてくる。その代表的なものが、JR渋谷駅前のスクランブル交差点や、春には桜、富士山、五重塔を同時に一枚の写真に収めることができる山梨県の新倉富士浅間神社などである。 こうした場所は、日本人が気づかなかった面白さに海外の視点から気づかせてくれている。そこに多くの観光客が訪れ、大きな経済効果をもたらしたという意味では、肯定的に評価されるべきものであろう。 しかし、それらとは対照的に、むしろSNSでの発信が、地元の人々にマイナスの影響を与えた例もある。 その一つが、今年、富士山がよく映るスポットとして海外のSNSで紹介された、麓のコンビニの隣接地である。そこに海外からの観光客が押し寄せ、ゴミのポイ捨てや、道路上への立ち入りによる自動車の運行妨害など、迷惑行為が多発したのだ。その対策として、地元では、富士山が見えないように周辺に黒い幕を設置するという異例ともいえる対応がとられた。そのためのコストは大きかったであろうし、本来の見晴らしのよさによる魅力を自ら否定することになってしまったのである。
とるべき対策
このように、それまで全く注目されていなかったような場所がSNSの影響によって一気に観光地化した場合、地元の対応が追い付かず、京都や鎌倉といった世界的に有名な観光地と同様のオーバーツーリズムの問題にさらされることになる。 観光客が増加することによる経済効果への期待が大きいことは十分に理解できる。しかし、それは地元の人々がより「豊かな」生活が送れるようになることが前提である。オーバーツーリズムが発生してしまうと、地元の人々の日常生活に支障をきたすことになり、それは持続的なものとはなりえない。 では、富士山の問題に関して言えば、どう対応していくべきなのか。 まず、先にも述べた通り、特に海外からの観光客に対して、富士登山はリスクを伴うものであるという啓発活動を行うことが重要である。せっかく日本に着たのだから、ついでに有名な富士山にも登ってみようという安易な発想をさせないようにする必要がある。 また、安すぎる登山料も再考すべきだ。この円安下では3000円という登山料(通行料2,000円と、環境整備の協力金1,000円の合計)はまったく登山を思いとどまらせるようなものとはならない。そもそも、昼食などに1万円程度を払う海外からの旅行者は極めて多い。このことは、我々自身に振り返って考えてみてもそうであろう。めったに訪れることのないような場所を訪れた場合、少々高めの料金であろうと、せっかくの機会だからといってそれを支払う心理が容易に理解できるはずだ。その心理を押しとどめるためには相当に高い料金を設定する必要があるのである。 たとえば、日本人と外国人観光客との間に二重料金制を設けることも考えられるだろう。誰もが格安で登頂できてしまう「世界遺産」は、世界的にも富士山くらいである。エベレストが175万円、北米最高峰のデナリは7万円を課していることを鑑みても、富士山も10万円くらいの登山料は設定してもいいのではないだろうか。
戸崎肇(とざきはじめ) 桜美林大学航空マネジメント学群教授。1963年生まれ。京都大学経済学部卒。日本航空での勤務を経て、帝京大学、明治大学、早稲田大学、東京都立大学などで教鞭をとり、2019年より現職。著書に『ビジネスジェットから見る現代航空政策論』(晃洋書房/2021年)、『観光立国論 交通政策から見た観光大国への論点』(現代書館/2017年)など。 デイリー新潮編集部
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