「世間をごまかしていない」現役の東京大学講師も感激した「伝説のストリッパー」の生き様
東大講師も感激した「義理堅さ」
「彼女が非常な逆境に生まれたなかで、そして、非常にたいへんな屈辱とか悲惨な目にあいながら、非常に正直に一生懸命に、まともに一生懸命に生きてきた、その真剣な生き方に感動したわけです」 とにかく「逆境」を強調する。 「彼女の場合においては非常に正直な性格で、世の中をごまかして生きていない。我々の普通の人の生き方と違った非常に正直な生き方、しかも、逆境のなかでそれに耐えて、ひたすら一生懸命に生きてきた、そういうところに一種の感動を覚えたわけです」 弁護人から、一条の人柄に感動して小説を執筆したのかと確認された駒田ははっきりと、「はい、そうです」と答えた。 弁護側は彼女がどれだけ真面目に社会と向き合ってきたかという点を主張したかった。重ねてその人柄について聞いている。それに対し、駒田は一般社会のほうがむしろ不真面目であると強調した。 「我々普通の社会人が、ややもすればごまかしてしまう、あるいは避けてしまう、あるいはうまく逃れてそこは通らずにすっと通り抜けてしまうという、そういうところが彼女にはない。そこを正直に義理堅く一生懸命に生き抜いている」 舞台に上がった一条は、恥ずかしい部分を開いて見せるよう観客や劇場側から期待された。多くの社会人なら、適当にごまかすところを、義理堅い彼女はそれを避けずに真正面から向き合った。彼女がやったことは「わいせつ」な行為ではなく、罪に問うべきではない。これがその芸を目撃した駒田の考えだった。
ストリップはわいせつではない
そして、彼は劇場内での踊りが、なぜ犯罪に当たるのかわからないとして、ストリップ自体のわいせつ性を否定していく。 「道ばたで陰部陰毛を露出して、そして人々からカネを取るとかそういったことならば、それは犯罪かもわかりません。けれども、その道の劇場のなかで、お客が入場料を払って、それを見にいって楽しむわけですから、そして多くの人たちはやはりそれを望んでいる。おそらく、彼女を検挙した警官にしろ、裁く人たちにしろ、喜んで見ているもんじゃないかと思うんです」 証言が終わり、一条本人への尋問に移った。保護観察の期間中に舞台に出ざるを得なかった理由について、彼女は事務所からの依頼を断れなかったためと説明した。 「わいせつに近い行為はやるまいと思っていたんですが、舞台へ出たら、ついこうなってしまったんです」 引退を表明したにもかかわらず、日活ロマンポルノに出演するという話が週刊誌などに出ていた。一条への尋問で裁判官の大野孝英は最後にこう問いただしている。 「最近週刊誌に出ていたところでは、映画に出るとかだが」 「東映から話がありましたが、主人が断ってきました」 『異例の裁判やり直し! 警察と検察の異常なまでの「執念」に追い詰められた「伝説の踊り子」』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)