富士山と宗教(15)富士講聖地を見学者に公開、宗教者の思いは複雑
一方、角行を祖とする富士道の信仰者にとって、人穴洞穴はまさに聖地。その洞穴内にシェルターが設置されて、定期的に見学者が訪れることに思いは複雑なようだ。 富士講は、系譜として食行身禄派と角行直系とされる村上光清派がある。身禄派の流れをくむ神道扶桑教の宍野史生管長はこう話す。 「人穴は富士講の開祖・藤原東覚角行さまが修行を重ね天地平安の祈りをあげられた富士道発祥の聖地。穴の側には106歳で都天(逝去)された角行さまの墓所があり、富士講の先達たち(富士道信仰の指導者)は角行さまを慕い死んだ後も角行さまに従い修行を重ねることを願望し、周辺に自身の墓を建てた。約450年間にわたる信仰の霊地で、さらには角行さまが家康公を追っ手から匿い、まつりごとの真理を授けたという伝承地でもある。ゆえに角行さまに所縁の地元の皆様により丁寧に護持されてきた場所であり、内陣(内部)での『おがみ』は神聖な神事として受け継がれてきた」。
洞穴内部の公開については「人穴内部にシェルターと呼ばれるスチール製の屋根付き通路が設置された結果、人穴内部の雰囲気は激変した。世界遺産になったが故に起こった変化に戸惑いを覚えている」とコメントした。 また、角行直系の流れをくむ富士御法家の勝間田孝一管長は「聖地ですので、むやみに観光のシンボルにされては困るという思いがあります。富士講は過去の遺物との認識で考えておられるのではないか? 富士信仰は今日も継承されており、(公開にあたり)ひと言話をいただきたかった。残念な気持ちです」と話した。 世界遺産登録後、国内外から多くの人が訪れている富士山。信仰の対象として世界遺産登録されたが、富士山信仰がインバウンド観光の「道具」にされているのではないか、との懸念が宗教者たちの思いの中に少なからずあるようだ。