「その本の読み方だと、むしろ頭が悪くなります」…多くの人が勘違いしている「頭の悪い人の本の読み方」
「一問一答式知識観」の罠
(3)知識を収集すること自体が思考力を高める 最後に私は、知識を収集すること自体が、人間の思考力を高めてくれると信じていました。知識とは累積的な性格を持ち、便利な思考のアイテムとして役立ってくれるのであれば、そうした有用な存在である知識を集めていくだけで、人間の思考力は向上すると思っていたのです。 そしてこれは、私の読書の仕方に決定的な影響を及ぼした考え方でした。なぜなら、こうした考え方を認めてしまうと、本の中に書かれている知識を単にインプット(暗記)さえしていけば、自動的に思考力も向上するということになるからです。 本に書かれている内容を、虚心坦懐に頭の中に移行させること──読書とはそのようなものであると私は思っていました。だからこそ、当時の私は「いかなる観点を取れば、こうした主張が出てくるのか?」ということを特に疑うこともなしに、著作に書いてあることをそのまま肯定するようなまっさらな(書き込みの無い)読書を行っていたのです。 さて、こうした3つのテーゼによって支えられた「知識についての考え方(知識観)」を、私は「一問一答式知識観」と呼んでいます。 例えば1万の問いが記された一問一答形式の本を目の前にしてしまうと、「このように、客観的な知識はどんどん積み重ねられていく」と自然に考えるようになってしまいます。また、第1問、第2問……という風に問いが記されていくと、「それがどのような人物によって提起された問いなのか?」ということを考える視点も自然に失われてしまいます。 さらに、このような形式の本による独習法に親しんでいると、次第に「本の知識を網羅的にインプットすることこそが、思考力を高める訓練になる」という考えに陥ってしまいます。 こうした一問一答式知識観に立脚していたからこそ、私は「単に本に書かれている内容を片っ端から受容していく」という仕方の読書法をあれほど長い期間続けてしまったのです。その結果、失われてしまったのは私の思考力自体でした。単に本を読み続けるだけでは、人間の思考力は失われてしまうのです。あれほど深い落胆を感じた経験は、後にも先にもありません。 さらに連載記事<アタマの良い人が実践している、意外と知られてない「思考力を高める方法」>では、地頭を鍛える方法について解説しています。ぜひご覧ください。
山野 弘樹(哲学研究者)