《ブラジル記者コラム》恩赦委員会が再検討始めるか=大戦での日本移民迫害への政府謝罪
前政権中に7対2で否決された謝罪請求
だが県人会の上原ミウトン定雄会長(当時)、島袋栄喜元会長、宮城あきらブラジル沖縄県人移民塾代表は、奥原さんと共に2019年12月11日にブラジリアに赴き、恩赦委員会の担当弁護士2人に請願書を渡して説明した。通常は15分で終わるはずの面談が2時間も長引くなどの手ごたえを感じていた。 その時に手渡した文書には、《連邦政府は「スパイ通報」という無実の罪を着せられた私たちの先人たちに対し、今日に至るまで謝罪の言葉もなく、無言のままであります。連邦政府は、過去の幾多の困難を克服して、民主主義を標榜する新しい国家建設を目指している今日、過去の歴史を振り返り、汚名を着せられ差別的な人権抑圧を強いられてきた全ての日本人移民・沖縄県移民に対し、その名誉回復に真摯に向き合うべきことを切に思うのであります。私たちは、連邦政府が2度とあのような忌まわしい過ちを繰り返さないために、退去を命じられた沖縄県人移民を含むすべての日本人移民の名誉回復のために政府としての謝罪を強く願い訴えるものであります》と書かれていた。 ところが2022年6月に同委員会では7対2で却下された。奥原さんはその時「普通なら判断が下る前に、委員の前で直接に主張をする機会が設けられるのに何もなかった。いきなり『却下された』と連絡が来た」と悔しそうに語った。 それが2023年1月から始まった第3次ルーラ政権によって、恩赦委員会メンバーの入れ替えが行われ、見直し機運が高まっている。23年1月17日付G1サイト記事によれば、ブラジリア大学(UnB)法学部のエネア・デ・ストゥッツ・エ・アルメイダ教授を新委員長に新メンバー14人が任命され、《その使命は2019年以降の事業における「政治的介入を撤回」し、包括的見直し(reparação integral)の概念を復活させること》と報じられた。 つまり、ボルソナロ政権中に否定された案件の再検討を始める。前政権中の2019年から2022年にかけて恩赦委員会が討議した賠償訴訟4285件の内、4081件(95%)が拒否された。そのうちの一つが日本移民への謝罪請求だ。 ルーラ政権が委員会メンバーと規約を刷新 今政権から復活した「包括的見直し」という方向性とは「独裁政権の暴力などによって被害を受けた集団の精神衛生にも配慮することを重要視し、被害者や家族への金銭的賠償、もしくは政府謝罪」を意味するとされ、ここに日本移民迫害への政府謝罪が含まれるとの期待がある。 2023年3月から恩赦委員会は、特にボルソナロ政権時代に係争中あるいは申請が却下された件に関する再検討を実際に始めた。さらに手続き規則にも重要な変更があり、それまでは個人からの申請しか受け付けなかったが、集団からの申請が可能になった。ただし、集団的申請では経済的賠償はできない。 このメンバー変更と方針転換を受けて昨年9月、奥原マリオさん、沖縄県人会の上原ミルトン定雄元会長、島袋栄喜元会長が、首都ブラジリアで恩赦委員会元法律補佐官のチアゴ・ヴィアナ弁護士と懇談した。 法科修士研究国家評議会(CONPEDI)23年論文集に収録された、アルメイダ教授(委員長)とヴィアナ弁護士らが連名で執筆した「集団的政治的恩赦-ブラジルにおける移行期司法の新たな視点に関する考察」の中では、《集団への政治的恩赦の可能性が(恩赦委員会の)新手続規則に明示されたことで、その実施と司法論議への影響について考える必要が出てきた》と書かれている。 つまり、前政権時代の日本移民迫害に謝罪する審議で否決に賛成が7人、反対が2人いたことに関して、当時は「集団に対する恩赦」には検討対象外であったにも関わらず、謝罪すべき派が2人いたことは、それが新規約として対象に入った現在なおさら再検討に値すると示唆している。 これに関して、奥原マリオさんは「この論文を読んで鳥肌が立った」と語っている。